「バーチャル大阪」にログインすると、大阪を代表するランドマークの太陽の塔が現れる。このエントランスからは大阪・関西万博に出展される大阪パビリオンに関しての情報が見られるコンテンツや、同じくclusterで公開されているバーチャル渋谷、そして大阪の新市街エリアにワープできる。
この新市街エリアは、大阪城やスカイビルといった大阪の観光スポットをぎゅっとまとめた空間になっている。道頓堀というリアルな空間をスケール感をそのままに再現した「バーチャル道頓堀」と比較したときに、どちらの空間の作り方がいいとなるのか。簡単には答えが出せない。なぜならば、ステークホルダーによって答えが変わってくる問いだからだ。
とはいえ、いちユーザーから見たときの印象としては、ポータルやワープポイントのような出入り口を用意してしまえば、移動時間がかからないというメタバースの利点を考えると、1/1スケールのメタバース都市「バーチャル道頓堀」のほうが観光する楽しみが生まれると感じる。
実はほかにも道頓堀を題材としたメタバース都市「バーチャル道頓堀」が存在する。前述した道頓堀ナイトカルチャー創造協議会が提供している「バーチャル道頓堀」とは異なる、「VRChat」のユーザーグループであるVRChat関西部が作り上げたVRChat内の仮想空間だ。以下、「バーチャル道頓堀 有志版」と記していく。
グリコの看板はクリコ、スーパー玉出はスーパー王出、雪印メグミルクは雪卵ミクメルク。リアルな道頓堀の雰囲気を再現するべく、関西らしいパロディーで世界観を構築している。かと思いきや、一部の看板は現実に存在する企業のものだった。
「バーチャル道頓堀 有志版」を企画した柳透氏(@yanagi_tooru)によれば、「バーチャル道頓堀 有志版」で広告を募集しているとツイートしたところ、企業からDMで連絡がきたという。それぞれの企業の中の人がVRChatユーザーであったそうなので、VRChat発祥の活動に理解が深いのではと考えられる。
こだわりのポイントは、道頓堀の雰囲気をできるかぎり再現しようとしたこと。道頓堀の町の構造のみならず、マンホールのデザインも現実にあるものを生かしている。製作にあたっては、現場の写真を大阪在住の柳氏が撮影し、香港生まれオーストラリア育ちで国籍はイギリス、現在は日本に住んでいるワールドクリエイターのIW氏(@vrc_iw)が、写真をベースに3D CGのモデリングを行ったという。またVRChat関西部のメンバーがそれぞれ得意分野で協力した。
ご覧のように、「バーチャル道頓堀 有志版」の解像度は高い。来場したVRChatユーザーの声をTwitterで検索すると、旅行に行った気分を味わったという人が多いことがわかる。
「バーチャル道頓堀」は共同企業体が企画した実証実験、「バーチャル大阪」は今後時間をかけてコンテンツを拡充していくと告知している。現段階において、細部を詰めるようなコンテンツ製作は難しかったのだろう。有志が自分たちの理想を追い求めて作ったコンテンツとの差が出るのは仕方がなかったと思える。
しかし「バーチャル道頓堀 有志版」を見れば、現地をよく知る人が製作に関わることで鮮やかでリアリティーが強い仮想空間が作れるということがわかる。大阪・関西万博のバーチャル万博だけではなく、世界中の都市がメタバース内で再現されつつある現在、仮想空間での都市の作り方に興味がある方は注目するべき事例だ。