吉野家常務「生娘シャブ漬け」発言がマズすぎた訳

また、私は吉野家を愛好しているといったが、事実としてさほど若い女性のリピーターを見ることはない。もちろんそれは私が店舗に行く時間帯によるかもしれないが、そもそも若い女性を夢中にさせてリピート客にするのは成功しているのだろうか。もともと若い女性が来店する頻度も少ないように思うが。実際に吉野家はリクルーティングサイトで女性は極めて少なく、25%程度と語っている。

この手の発言が社内で容認されていた?

2.講義内容について確認体制の欠如

→そこらの中小企業ではない。大企業の取締役が、さらに意識の高い早稲田大学の社会人講義で話す際にレビューの仕組みはなかったのだろうか。講義スライドには問題発言は盛り込まれていなかったとしても、通常ならば説明内容がどれだけ炎上するかは周囲の社員や秘書の方々だったら理解できたはずだ。

もしかすると、この手の発言が社内で容認されていたのではないかと想像させる。こうした想像をさせるのが企業にとっては問題だ。そうと想像できるのであれば、該当企業のコンプライアンスは不全であると誰もが感じるからである。

またあまり責めたくはないものの、可能であれば早稲田大学側も即止めるか、数日を待たずにすぐにコメントを出すくらいの早さがあったほうが良いのではなかったか。

さらにこれは酷な言い方ではあるものの、受講生たちも、問題発言があったその場で本人に抗議してほしかったと私は思う。ただしこれは雰囲気や空気、講師と受講生との関係性もあるから受講生を責めたいわけではない。ただ、「ヤバいことを言ってしまう」人たちに対して、リアルで気づかせる場面があってもいいと思うのだ。

なお私も安全圏からの発言ではない。先日、私はテレビでとある料理グッズの紹介の際に「これなら男性も料理がやりやすくなりますね」と発言した。そのとき、共演者の方から「男性がやりやすくなるかもしれないけれど、女性はやりにくくてもやっているんだよね」と言われてハッとした。私の未熟さゆえだった。

ところで、このところ企業の不祥事を繰り返さないために「3つのディフェンスライン」なる単語がよく使われる。これは文字通り、3つの防波堤を用いて企業人の不祥事を防ぐものだ。

たとえば、製造業の品質管理部門で不正試験がまかり通らないようにする。まず当事者である品質管理部門内で不正試験ができないようにする。これが1つ目のディフェンスラインだ。たとえば手入力で嘘の数値をインプットできないような工夫が必要だ。

そして、品質管理部門が虚偽の数字を提出しないように、たとえば設計開発部門が数値をチェックする。これが2つ目のディフェンスラインになる。

ただ、それでも品質管理部門と設計開発部門が蜜月で、現場の論理を優先して不正試験を許容してしまうことがある。そこで取締役会が直轄する監査部門が、その品質管理部門の数値を確認する。抜き打ちや年間監査などで実態を明らかにする。これが3つ目のディフェンスラインになる。

企業のガバナンスは、以上のディフェンスラインを駆使して現場の暴走や不正を犯さないように牽制している。

経営陣の不祥事はディフェンスラインを突破

ただ、ここで1つ問題がある。経営陣が意図的に起こした不祥事は、この3つのディフェンスラインがあろうが防ぎようがない。あくまでディフェンスラインは相互監査で不具合を起こさないようにしましょうね。という仕組みであって、経営上層部が意図的に先導したものはディフェンスできない。

そのぶん企業の取締役などの上層部には相当厳しい責任が問われる。株主が取締役を選び、取締役が代表取締役を選ぶ。企業を方向づける側が間違っていたら、一般社員も間違ってしまう可能性がある。

話を吉野家に戻す。冒頭の発言は一般社員ではなく、主導する取締役の立場からなされた。その意味は大きい。企業のガバナンス強化が叫ばれる中、非上場企業ならまだしも吉野家ホールディングスになんらか属している人物の発言である事実は、その反響からも衝撃が伝わる。たとえばアメリカ企業のフードサービス事業者が「移民の貧民に、薬漬けにして中毒にさせるのが自社のビジネスモデルだ」といったとしたらその反応はどうだっただろうか。