30年目のJリーグ「IT企業が続々参入」の深い意味

その後、2018年10月にJ2・町田の経営権を取得したサイバーエージェント、2019年夏から鹿島を運営するメルカリ、2021年12月からFC東京の筆頭株主になったミクシィと、巨大企業が活発な動きを見せる。物販・ファンクラブ事業など一部ビジネスを受託するマイネットのような会社を含めれば、IT企業の力を借りていないクラブは少数ではないか。それだけ彼らの影響力は絶大なのである。

とはいえ、上記の参入企業のうち、楽天だけはスポーツやクラブ経営への向き合い方が微妙に異なるようだ。複数の関係者が「IT企業がスポーツに参入するポイントは大きくいって2つある。1つはブランド価値、もう1つがデジタル力注入で発展が見込めること。どちらかに主眼を置くケースが多い」と語るように、まさに前者に該当するのが彼らだ。

2020年の神戸の経営状況を見ても、営業収益(売上高)47億円に対し、人件費はなんと64億円。楽天から52億5000万円の特別利益を計上して黒字化している。この投資の仕方からも「ブランド価値重視」というのがうかがえる。

メルカリやミクシィはそうではない。とりわけ、鹿島は「常勝軍団」としての地位を死守しつつ、営業規模拡大の具現化を重要視している。

彼らのホームタウンである茨城県の鹿行地域は人口約27万とマーケットが小さく、少子高齢化が進んでいる。首都圏や関西圏に本拠地を置くクラブとは異なる難しさに直面しているのは確かだ。カシマスタジアムの塩害など老朽化によるスタジアム新設も早急に取り組まなければならず、輝かしい未来が開けているとは言い切れない部分もある。

スタジアムを軸にパートナー企業の課題解決

それでも、もともと熱心な鹿島サポーターだった小泉社長は大目標達成を最重要課題に掲げている。「5~10年後には年間売上100億円達成」という使命感を持って、貪欲に突き進んでいく覚悟だという。

「タイトルを獲り続けるクラブであるために、われわれは選手育成に注力しています。レジェンドである元日本代表の柳沢敦をユース監督、小笠原満男をアカデミーのテクニカルアドバイザーに据え、トップで活躍できる人材を続々と輩出できるように体制を強化しています。われわれがもう1つ重視するのは、町のサイズが小さい分、首都圏からの観客やパートナー企業が多いという点。彼らの課題解決を一緒にやっていけるような関係作りをすることが大切です。

NTTドコモの5Gを使ったスタジアムの新たな観戦体験の提供、NECの顔認証の実証実験、カネカのグリーンプラネットの利用など、スタジアムを軸に協業できる部分は少なくない。そこに着目していくことも、今後の成長に不可欠。スタジアムの試合日以外の有効活用も収益化のカギになります。そうやってアントラーズの存在を中心にホームタウンを魅力ある場所にできれば、鹿行は選ばれる地域になれる。テレワーク化で2拠点生活者も増えていますから、可能性は少なくないと思います」と小泉社長は力を込める。

ホームタウンが小規模というのは、鹿島だけが直面する問題ではない。人口減が進む日本にしてみれば、大都市圏もいずれは下降線をたどる。そこで視野を広げなければいけないのが海外、特に東南アジアだ。

セレッソ大阪や湘南ベルマーレなどもスポンサー企業とタッグを組んで、タイやベトナムなどで基盤強化を図っているが、IT企業が経営権を持つクラブはテクノロジーを駆使した展開が容易にできる。3月からはJクラブの上場も解禁され、海外資本流入の可能性もより開けてきただけに、このあたりは注視していくべき点と言っていい。

業界全体のDX化が今後のカギ

鹿島の小泉社長も「これまでクラブの資金調達方法は親会社の支援か銀行借り入れの2つしかなかったですが、IPO(新規上場)が可能になったので資本市場から調達できるのは新たな選択肢になる。IPOという夢が生まれたのは特筆すべきことだと思います。今はクラウドファンディングやギフティング(投げ銭)、ファンが特定の権利を得られるトークンなど収益方法も多様化しているので、業界全体がより一層、DX(デジタルトランスフォーメーション)化していくことが大事。地方ほどそうしていくことで合理化や効率化が進むと見ています」と先々への期待を口にした。

かつては旧財閥系やメディア企業がJクラブオーナーのメインだったが、時代の流れとともにIT企業の参入はもっと増えていくだろう。メルカリとミクシィのように関係性の深い企業同士の連携や協業も増えていきそうだ。そうなっていけば、Jリーグも新たな収入源を得られる可能性もある。

1993年のリーグ発足から30年目を迎えた今、彼らが吹かせる新風がJ、そしてサッカー業界全体を大きく変えていきそうだ。