ビジネスで「論破」より10倍役立つ「Yes,but話法」

クリエイティブディレクターに聞く、反対意見に対する上手な対処法とは(写真:jessie/PIXTA)
「論破」という言葉がメディアでもてはやされている。しかし、ビジネスの現場では、論破は必ずしもプロジェクトの成功に結びつかない。むしろ長期的に見ればマイナス面のほうが大きい。では、もし自分の考えと相手の考えが異なり、相手が間違っているとわかった場合、どのように対処すればいいのか。
電通の営業マンからキャリアをスタートし、独立してサントリー「角ハイボール」他のプロジェクトを手がけている異色のクリエイティブディレクター齋藤太郎氏の初の著書『非クリエイターのためのクリエイティブ課題解決術』から、反対意見に対する上手な対処法を紹介する。

ディスカッションをしていても、プレゼンをするときも、クライアントからいろいろな指摘や反対意見が出てくることはあります。人それぞれに意見があるので、当たり前のことです。

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私はクライアントに対して、自分たちが考えたプランや施策について「何も言わないでくれ」とはまったく思いません。むしろ、感じたことを言ってもらったほうがいいと思っています。

というのも、その時点では誰も正解なんてわからないからです。特に、クライアントは事業に責任を持ち、投資の責任もプレッシャーも負っているわけです。

思ったことを言ってもらってアイデアを再考したり、ブラッシュアップをして、結果的に良くなることも多々あります。クライアントと私たちが同じチームとしてアイディアや表現を磨いていくことができれば最高だと思っています。

間違った指摘にどう対応するか?

ただし、いつもそう上手くいくわけではありません。もらった意見や指摘が納得できるものならいいのですが、問題は、どう考えても明らかに的外れのときです。忖度してその意見を採用することは、最終的にクライアントのためにもなりません。かといって、無視したり、一刀両断にするわけにもいかないでしょう。

そういうときに私は、「Yes,but」で対応することにしています。相手の目を見て最後まで話を聞いて、いったんは「そうですね」と相手の主張を受け入れる。その上で、自分はこう考えている、という話を伝えていくのです。

誰だって、自分が正しいと考えてしている発言が聞き入れられなかったり、否定されたりすると、その発言が正しいか間違っているかよりも、「それが受け入れられなかった」という負の感情が先に立ってしまいがちです。そうなると、純粋な議論ができなくなり、感情論に巻き込まれてしまう恐れがあります。

それを回避するためには、どんな意見に対しても「聞いてもらえている」「受け入れてもらえている」と最初に感じてもらうことが肝要です。まずは「ああ、この人は話を聞いてくれる人なんだ」と安心してもらえるようにすることです。

もちろん、そのまますべてを受け入れるわけではなく、最終的にはこちらの思っている方向に誘導していくことが必要なのですが、いったんはきちんと聞いて、受け止めることが重要です。

論破は誰も得をしない

結局のところ、ビジネスにおける課題解決のゴールは結果を出すことであり、クライアントを、いい方向に誘導していくことです。そのときに、必ずしも自分が論破しなければいけないわけではないし、コミュニケーションにおいて勝たなくてもいい。その場の議論に勝つこと自体に、さして意味はないのです。

実際、論破しようとしたことを振り返ると、うまくいったケースよりも、うまくいかなかったケースのほうが多かった印象があります。「いや、こうなんです」と反論したところで、自分が言っていることと180度違うことを言われて、「はい、わかりました」と刀を引っ込める相手はそうそういません。「白がいい」と言っている人には、「絶対に黒がいい」という提案はやはり難しいのです。だったら、「ああ、白ですか。いいですね。でも、ちょっとそれだと色としてさみしくないですか。少し差し色を入れていったほうが印象もつくと思いますよ」と返していく。そして結果的に紺色くらいに落ち着ける、みたいな誘導の仕方をしていかないと、なかなか前には進んでいかないのです。

率直に自分の考えていることを伝えていくことは大切なことだとは思います。しかし、「とにかく伝えればいい」というわけではない。伝え方だったり、人の気持ちの動かし方というのは、順番だったり、時間軸だったりが、極めて重要になってくるのだと思います。

コミュニケーションというのは、つくづく深く、難しいものです。