新型コロナウイルス感染症の勢いはとどまるところを知らず、SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(以下、オミクロン株)の感染者数は連日5桁を記録しています。感染者や濃厚接触者の著しい増加によって、職場は深刻な人員不足に陥っており、以前のようにじゅうぶんな自宅隔離期間を経ないうちに復職せざるをえない状況となっています。
また、オミクロン株はこれまでのものと比較して症状が軽度であり、感染していながら無症状の方も多くいらっしゃいます。感染力が強いがPCR検査で検出しづらい「ステルスオミクロン」の存在も報告されています。したがって、街中には濃厚接触者や無症状の感染者がどこにでもいる状態であり、いつ自分がオミクロン株に接するわからない状況といえます。
同時に、この時期は花粉症の症状があらわれる時期でもあります。花粉症は、現在日本人の4人に1人がかかる国民病であるといわれており、子どものときに無症状でも大人になってからはじめて症状が出る方も少なくありません。そして、オミクロン株と花粉症の症状は似ているために区別が難しく、咳や鼻水が出たときに花粉症の治療として抗アレルギー薬を飲むべきか、職場に伝えて抗原検査をするべきか迷った結果、不安を抱えて受診する方が増えています。
今回は、正しくご自身の症状に対処するために、この2つの疾患をどのように区別したらよいかお伝えしたいと思います。
まず、現在大流行しているオミクロン株の主な症状は鼻水、咳、のどの痛み、倦怠感、頭痛、発熱です。このうち咳はコンコンという空咳が主ですが、痰の絡むような咳(湿性咳嗽)もよくみられます。頻度は少ないながら嗅覚障害や味覚障害が起こる方もいます。
これらの症状は花粉症でも十分起こりえます。鼻水や咳、くしゃみは代表的な症状であり、加えて鼻が詰まることで嗅覚障害・味覚障害のような症状があらわれるほか、頭痛や倦怠感、熱っぽさを訴える方も多くいらっしゃいます。
このように両者の症状はとても似ていますが、花粉症とオミクロン株を区別できる点は、実はいくつもあります。まず大きく違うのが目のかゆみの有無です。これは、花粉症ではよくみられる症状ですが、新型コロナウイルス感染症では報告がほとんどありません。
発熱もオミクロン株では37.5℃以上となり、筋肉痛を伴うこともよくありますが、花粉症では熱っぽさが単なる倦怠感にとどまることが多く、熱があったとしても37.5℃を超えない軽度なものです。
また鼻水は、オミクロン株では粘り気のある黄色や緑色のものになりやすい傾向がありますが、花粉症ではサラサラとした水っぽい鼻水が特徴的です。
のどの痛みについても、オミクロン株ではイガイガした「痛み」がメインであるのに対し、花粉症では「かゆみ」「不快感」と表現される、痛みとは少し違った症状となります。
また、症状が悪化するタイミングも区別のポイントになります。花粉症は、花粉がよく飛ぶ晴れた風の強い日や湿度の低い日、また雨上がりの朝に悪化しやすい特徴がありますが、オミクロン株ではそのような天候の要因は関係しません。室内に移ると症状がおさまることも花粉症の特徴といえるでしょう。
このように、さまざまな視点から花粉症かオミクロン株かを判別することができますが、不安な場合は、まずはかかりつけの内科や耳鼻科、保健所に電話で相談しましょう。この時期に病院を受診することは、オミクロン株への感染リスクを考えると憚られる面もありますが、花粉症であれば早期にアレルギーの検査等を通じて診断を受け、早めに症状を抑えることが大切です。これによって公共の場で咳やくしゃみをせずにすむだけでなく、万が一オミクロン株に感染したときにその初期症状を見逃しにくくなります。花粉症の治療薬である抗アレルギー薬は花粉が本格的に飛び始める前から飲むことが効果的とされており、今の時期でもまだ間に合います。
さらに、予防に関しては、花粉症もオミクロン株もマスク着用が有効です。さらに帰宅後はすぐにうがい、特に鼻うがいをすることも効果的です。花粉症では鼻の粘膜についた花粉、オミクロン株では鼻やのどに付着したウイルスを洗い流す効果が期待できます。また新型コロナウイルス対策はこまめな換気が重要ですが、花粉が室内に入り込むデメリットもあるため、早朝や夜間に行うか空気清浄機の活用を検討しましょう。
なお、季節の変わり目であるこの時期の咳やくしゃみは「寒暖差アレルギー(血管運動性鼻炎)」かもしれません。室内と屋外の気温差が大きい場合、室内から屋外へ、またはその逆によって症状がひどくなる方はこの疾患の可能性があります。私の以前の記事【風邪でもないのに「せきやくしゃみ」が出るワケ】で予防や対策についてお伝えしていますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
新型コロナウイルスに加えて花粉と、外出自粛の要素が増える春の季節ですが、誰もが安心して外出できる社会を目指して、基本的な感染対策を続けていきたいものですね。