Yさんは、10年ほど前から、韓国ドラマを見始めた。最初にハマったのは、三国時代の新羅の女帝を描いた歴史ドラマ『善徳女王(ソンドクじょおう)』。学生時代は歴史が苦手だったのに、政権争いを描く物語に引き込まれた。同じ頃、同じ時代を敵側の百済から描く『階伯(ケベク)』も観て、視点を変える面白さを発見。そのうち見るものの幅が広がっていく。
韓国ドラマのジャンルは、「日本では考えられないほどグロテスクなホラー系、ファンタジー系、社会派ドラマまである」幅広さも魅力。しかも、「短くても16回、歴史ものだと100回を超える長さで放送されるので、あり得ないような恋愛のすれ違いも、その事情がていねいに描かれるため納得してしまう」と分析する。
フリー編集者、62歳の戸塚貴子さんは、「多くの社会的危機を乗り越えてきた韓国の足腰の強さを、韓国ドラマは表現している。社会への問題意識を打ち出す中に、必ず女性の地位向上への視点がある」と分析する。
映画やドラマが好きな戸塚さんは、ポン・ジュノ監督やキム・ギドク監督などの演出、脚本、俳優の演技の質が高い、と韓国映画に長年注目してきた。ドラマについてはコロナ禍になり、Netflixで観るようになったという。
「『愛の不時着』は脇役の物語もしっかり描いていて、脚本がすばらしかった。『ハイエナ―弁護士たちの生存ゲーム―』は、アウトローな女性弁護士の言葉の明快さがすごい」と話す。
「自立した女性」「強い女性」に引かれる、というのはK-POPファンからも聞かれる。
26歳の会社員、Kさんはもともと日本のゲーム、アニメ、アイドルが好きだったが、今はK-POPアイドルをフォローするのに忙しいという。ハマったきっかけは、日本の人気女性アイドルグループNiziU(ニジュー)のオーディション番組を観た折、課題曲に使われていたK-POPに興味を持ったことだった。
K-POPアイドルについては、YouTubeやVライブなど、さまざまなインターネットメディアでライブ映像を観ている。任天堂のネットワーキングサービスのミーバースで、アイドルの投稿もフォロー。追いきれないほど、情報量がとても多いという。
最近、韓国語も学び始めたKさんは、「女性がかっこいいと思う女性グループが多い。特に好きな5人組のITZY(イッチ)は、自立した女性を描く歌が多い」。
話を聞いていくと、韓流ドラマの魅力は女性の「言葉遣い」にもあるようだ。
冒頭の慶應生Sさんは、「女性の主人公が、馬鹿にされても怖気ずに立ち向かおうと汚い言葉を使うシーンは、観ていてむしろすっきりする」と話す。
日本の場合、女性の言葉は字幕で「だわ」とされるなど、ニュートラルな元の言葉が女性語にされる場合があるが、「特に仕事の現場で女っぽい言葉に訳されると、フラストレーションがたまります」と慶應生のIさんは話す。
韓国ドラマ事情にくわしい文教大学文学部の山下英愛(ヨンエ)教授は、「韓国語にはあまり女性語や男性語がありません。しかし、日本語の字幕では一般的に使われているより頻繁に女性語が出てきます。女性が男性に対して、実際には使っていない敬語を使う字幕になっているなど、ジェンダー化が再生産されています。だから、長年のファンはコリア語を勉強しますし、ニュアンスが違うことを理解しながら観ています」と話す。
「小学生からK-POPを聞いてきた子は、大学で韓国語を学ぼうとしたとき、日本語にない韓国語の母音もちゃんと発音ができます。学生たちは韓流カルチャーが好きなのに、お父さんが嫌韓の場合が多い。なぜ嫌いなのか、お父さんにインタビューして、卒論に書くんです」(山下教授)