それが限界にきたとき「これでは体がもたない。できない部分はあきらめて、自分の路線で得意なことをしてみよう」と軌道修正。「日本一フレンドリーな接客」を目指し、前職の施設コンパニオンで培った接客マナーや心遣いをスタッフにも伝えていきました。
お客様が手に商品をもっていたら、すぐさまカゴをもっていく、キョロキョロしていたら、すぐさま「なにかお探しですか」と声をかける、そしてなにより笑顔の接客をする……というように。すると、“男性と同じくらいに”がんばっていたときより、上司に評価され、地域の新入社員教育を任されるようになったのです。
男性でも女性でも、必ず人には持ち味があり、得意なことがあります。
30歳までは、苦手なことも含めて、いろいろなことに挑戦するのも仕事の基礎体力やバランス力をつくり、成長につながりますが、30歳からは、自分の得意なことで勝負する時期です。「広く浅く」から「狭く深く」。「これは私の領域でない」という部分を手放して、その分、自分に合うピンポイントの部分を成熟させていく。組織のなかで“自分路線”をつくれば、それは自信になり、自分の居場所になります。
「こんなふうになりたいという“ロールモデル”が社内にいない」とは、よく聞く話。“ロールモデル”がいなくても、自分と会社との折り合いをつけながら「ここで、こんなふうに働いていきたい」という“自分路線”をつくっていけばいいのです。そうなるためには、その場所になくてはならない存在になっていることが大前提です。
30歳前後はそれぞれの道にちがいが現れてきて、焦りを感じる時期でもあります。しかし、まったく焦る必要はありません。先は長いのですから、遠回りをしても、しばらく休んでも、自分の道を自分のペースで歩けばいいのです。「定年まで働いて余生を送る」「同じ仕事を一生続ける」という時代でもありません。女性も出産や子育てで一時期、仕事を離れても、ほとんどが再び働くようになります。
30歳から伸びる人はもちろん、40歳、50歳で頭角をあらわす人、60歳からなにかを始めようとする人も続々と出てきています。
私のまわりでも、30代で弁護士になった元CA、スポーツ医療の分野からドイツの食肉マイスターを取得し、国内外を飛び回っているコンサルタント、40代で専業主婦から修行を経て、廃墟だった寺を再生させた住職、50代で大学院に入学、准教授になった人、不動産会社を始めた元会社員などさまざま。店を開いたり、起業、独立したりする人は後を絶ちません。ほかの世界を体験し、別のなにかを積み重ねてきたからこそ、生きてくる仕事もあるのです。
なんにもしていないようでも、生きていれば、なにかしら積み重なっているもの。その年齢だからできる発想や判断などがあるのです。人脈にしても、年を重ねるほどまわりが管理職など影響力のある立場になっていることが多く、「こんなことをやりたいから協力して」ともちかけると、話が早い。電話1本で、あっという間に実現してしまうこともあります。
会社員にしても、逆転は大いにあり。企業が新しい事業に乗り出したり、体制が変わったりするなか、「あ、ここにいい人がいた!」とステージが用意されて、これまでやってきたことが、いきなり花開くのも、よくある話です。20代でうまくいかないのはあたりまえ。そんなときにどう進んだかが、30代、40代のステージをつくっていくのです。
人生において、「覚悟を決めて、受け入れる」という姿勢は大事です。あれもこれもと、ないものねだりをするのではなく、いま置かれている状況のなかで、投げ出さずに、最善を尽くしていく……。日々の仕事や生活は、そうして築かれていきます。心の成熟や、仕事の成長も、そうして生み出されます。