グーグル日本元社長「日本からGAFAは生まれない」

イーロン・マスクは、現時点では、すべてがチャレンジの途中で、まだ真に成功させたといえる事業はありません。しかし、世界中から巨大なマネーを引き付ける魅力があります。彼に匹敵する集金力を持つ人物がそうそういるわけではありませんが、ソニーやトヨタにも時価総額を大きく上げるような夢やビジョンを発信してほしいものです。その昔、ソニーはスティーブ・ジョブズがあこがれた企業でもあったわけですから。

私は、グーグルに入る前はソニーにいました。私が知るソニーは、人がやらないことをやる企業でした。トランジスタが発明されて間もないころ、いち早く個人用のトランジスタラジオを発売し、世間をあっと言わせました。今では、スマホで音楽を聴きながら歩くことは当たり前ですが、そのようなライフスタイルは、ソニーの「ウォークマン」から始まりました。一般ユーザーが気づきもしないような潜在ニーズを掘り起こし、他人がこれまで作ったこともないようなものをゼロから作ってきたのがソニーなのです。

ところが、EVは、すでにみんながやっています。自動走行、コネクテッドカー、クリーンエネルギーなどで自動車産業は大変革期を迎えています。アップルも参入するといわれていますし、今後は、中国勢なども圧倒的な存在になっていくでしょう。その中で、ソニーがどこに勝機を見出そうとしているのかは、今のところ私にはわかりません。

発表を見たところ、「車内をエンターテインメント空間にする」という話です。しかし、車のような移動手段にとって最も重要なことは、人を目的地にできるだけ迅速かつ安全に届ける、ということです。車内を本格的なエンターテインメント空間にするのであれば、完全自動運転も前提になるでしょう。

人の命を預かる工業製品を手掛けるということは、もとよりそれだけの覚悟が求められるということでもありますし、もともとソニーが強みとしてきた領域以外のところに多くのチャレンジがあることは間違いありません。

日本勢は、「いいデバイスを作れば勝てる」という発想に流れがちです。しかし、もうそこは勝負どころではありません。すべてがつながるデジタルの時代は、車だけを見ていてもダメなのです。もはや車も、スマホやパソコンと同じで、クラウドとつながり、他の車とも交信し、ソフトウェアをバージョンアップしながら進化する工業製品へと変化していきます。

車単体でどんなにイケてる斬新な車を作っても、事故を起こしたり渋滞にハマったりでは進歩がありません。デジタル社会全体を大きく俯瞰して、事故や渋滞から解放されたデジタル交通システムの中の1つの構成要素として車を位置づけていくような発想が必要です。そういう意味では、トヨタがスマートシティをやりはじめたことは、間違ってはいないと思います。

現在、地球上にはまだインターネットにつながっていない人々が半分ぐらいいますが、今後、インターネットにつながることは人権のひとつと解釈されるようになるでしょう。

イーロン・マスクやジェフ・ベゾスは、そのような時代を先読みしているかのごとく、宇宙に何千・何万もの小型通信衛星を打ち上げて、全地球をカバーする通信網を作ろうとしています。

一方、日本では、政治が介入して各携帯会社に値下げ合戦を強要しました。国内で携帯料金の値下げによるユーザー獲得合戦をやったところで、携帯大手4社で均等割りしてせいぜい3000万ユーザーです。地球上の79億人を全員インターネットにつなげようとしているイーロン・マスクやジェフ・ベゾスのスケール感とは比べようもありません。

GAFAは競合ではなく「インフラ的存在」と割り切る

日本企業がGAFAやイーロン・マスクとまともに勝負しても、とても勝ち目はありません。GAFAは公共インフラとでも捉えて、彼らの裏の顔に警戒しつつもうまく使い倒すのが、今を生き抜いていくためには大切なことでしょう。