有形商品を販売する企業であっても(たとえそれが信じがたいことに思えたとしても)、メタバースで成功することは可能だ。実際、メタバースでしか売れないアイテムを販売し、成功する例も少なくない。コカ・コーラが昨年7月にNFTのコレクターズアイテムを制作し、メタバースオークションで販売したのは最も有名な例だ。また、高級ブランドのグッチは、ロブロックスで仮想バッグのオークションを行い、リアル店舗で販売する有形のバッグよりも高い売り上げを達成している。
メタバースは大企業だけのものではない。プロデューサーや開発者、アーティストがメタバース上で直接商品を販売することも可能だ。特にデジタルアーティストは、NFTマーケットプレイス「OpenSea」のようなプラットフォームを利用して、コレクターに自分の作品を販売することで、収益性の高い直接的な販売方法を見つけることができる。
マーケティング手法もメタバース用に新たに開発されている。アメリカのファストフードチェーン、ウェンディーズは、ブランドのマスコットに似たキャラクター(アバター)を制作し、フォートナイトなど有名なオンラインゲームに参入。アバターの冒険はライブ配信され、何十万人もが固唾を飲んで戦いを見守った。
また、ファッション企業も若年層を取り込むためにゲームの世界に参入している。例えば、バレンシアガはフォートナイトとコラボし、ゲームのキャラクターにバレンシアガの服を着せた。バーバリーは、中国のモバイルゲーム「王者栄耀(伝説対決)」とコラボし、ゲームのプレイヤーにバーバリーの衣装を提供した。
パンデミック発生以降、多くの企業がテレワークや在宅勤務を実施している。実際、Zoomのようなサービスを利用すれば、自宅にかかわらず、世界中どこで仕事をしていてもお互いにコミュニケーションをとることが可能だ。が、一方でZoom疲れを起こしている人がいるのも事実だろう。
こうした中、自らも仮想空間を手がけるアメリカのスタートアップ、スパーティアルは会議をZoomからメタバースに移行し、チームが仮想空間でオンラインミーティングをできるようにした。この仮想空間では、オフィスの雰囲気を再現したり、オンラインで独自の新たな拠点を開発することも可能だ。
ここまで紹介した例は、メタバースが新たなビジネスモデルや顧客体験を生み出すための無数の道を開いていることを示している。では、今メタバースは、あなたのビジネスにどのような価値を生み出すことができるだろうか。
第1に、メタバースによって、企業はより価値ある、人々の記憶に残る、そしてインタラクティブな顧客体験を実現することができる。新規顧客(ゲーマーなど)に対応し、長期的な顧客関係を構築することが可能となる。また、従業員との関係のおいてもメタバースを利用することで、従業員同士のコミュニケーションをより円滑にすることもできるだろう。
第2に、メタバースは没入型の顧客体験を可能にするとともに、新たな(そしておそらくデジタルな)商品やサービスの開発を可能にする。メタバース内のショッピングセンターでのショッピング、コンサート、ファンイベント、そして美術館を訪れる体験は、「リアル」な体験ではないかもしれないが、自宅のソファに座っていても楽しむことが可能だ。
そして最後に、遠くない将来3Dアニメーションが主流となり、商品を見るためにスクロールしなければならないようなホームページは、単に古くさいと思われるようになるだろうと、筆者は考えている。私たちが今知っているネットが、今後「かっこ悪い」「古くさい」と思われるようになれば、遅かれ早かれ多くの企業がメタバースに参入せざるをえなくなるだろう。