ストリーミング指標を分析すると、Dynamite以降、新曲がリリースされる度にDynamiteを含めたほかの楽曲も聴かれ、BTSの全体の再生回数は階段のように上乗せされている。こうした積み重ねで、トップ100には過去の曲を含め7曲がランクインした。
BTSは総合アルバムチャートでも『BTS, THE BEST』が1位を獲得。アーティスト別チャートも総合首位を獲得するなど、韓流ブームの域を完全に突き抜けた格好だ。すでに人気は世界規模で、本家・米ビルボードのチャート「Hot 100」でも「Dynamite」は3回、「Butter」が10回、「Permission to Dance」も1回総合首位を獲得している。
そのほか、2020年の首位だったYOASOBI「夜に駆ける」はロングヒットとなり3位。YOASOBIは全部で11曲を送り込む大活躍だった。「鬼滅の刃」ブームで大ブレイクしたLiSA「炎」も4位(昨年9位)と健闘を続けた。
ロングヒットが目立つ中でも、多彩な顔ぶれが上位に進出した。社会現象とも言われたAdo「うっせぇわ」は7位。Awesome City Clubも「勿忘」(わすれな)が11位と大躍進。藤井風、川崎鷹也なども上位に登場。Official髭男dismやback number、あいみょん、米津玄師なども人気は健在だ。多くのアーティストがしのぎを削る、混戦模様の1年だった。
続く2022年はどうなるのか。ヒットの行方を占ううえで重要なのはリアルライブの動向だろう。2021年は音楽フェスなどの各種ライブが感染防止策を探りつつ、徐々に再開した年だった。
フェスはスターを創出した実績もある。女性シンガーソングライターのあいみょんだ。2018年、夏フェスに登場したことで音楽ファンに注目され、「マリーゴールド」の大ヒットにつながった。フェスやライブで人気が出ると、ダウンロードやストリーミングが伸びるケースが多い。デジタル発のヒットが目立つ中でもフェスは一定の役割を果たしている。リアルのライブ活動がチャートにどう影響するかはポイントになりそうだ。
また、BTSの大ヒットにより「K-POPのトレンドにどう対応するか」という課題も浮上した。前述のようにBTSは世界規模の成功を手にし、日本市場にも強烈なインパクトを与えた。世界規模でCDなどのパッケージ商品を販売することは難しいが、ストリーミングなら全世界で配信できる。「近年、レコード会社はアーティストを世界に売り出すことを考えており、BTSはそのロールモデルになっている」(礒崎氏)。世界市場を攻略するうえでBTSは最強の手本だ。影響は避けられない。
こうしたポイントを踏まえ、2022年にさらなるブレイクが期待されるのはバンド系アーティストだという。礒崎氏は「クリープハイプの『ナイトオンザプラネット』などは以前と楽曲の方向性が異なる。現在のヒットのトレンドを踏まえて、サウンドを再構築する流れがみられる」と指摘する。マカロニえんぴつやヨルシカ、オレンジスパイニクラブ、ずっと真夜中でいいのに。といったアーティストがどういった変化を見せるか注目だ。
現在も、音楽業界はコロナによる深刻なダメージを受け続けている。一方で、若手や新人アーティストが年間チャートに続々と登場し、音楽シーンがさらに活性化しているのも事実。今後、ライブやリリースなどアーティストの活動が正常化していく中で、ヒットの経路がどう変わっていくのか。このトレンドを見極めることこそ、2022年のヒットを生み出す条件になりそうだ。