多くの日本人が真逆に誤解「ジョブ型雇用」の本質

では、外に現れたものとしては何を評価するかというと、人事労務でいう情意考課です。情意というのは、一言でいうとやる気です。やる気というのは、企業メンバーとしての忠誠心を評価しているわけですが、やる気を何で見るかといえば、一番わかりやすいのは長時間労働です。「濱口はどうも能力は高くないけど、夜中まで残って一生懸命頑張っているから、やる気だけはあるんだな」という評価をするわけです。

日本は労働時間で評価するけれども、そうではなくて成果を見るべきだ、それがジョブ型だ、という近年の訳のわからない議論のもとになっているのは、実はこれです。

ジョブ型とは何か、メンバーシップ型とは何かという基礎の基礎をきちんとわきまえていると、いかにおかしな議論をしているかがわかりますが、その基礎の基礎がすっぽり抜けていると、こういうおかしな議論をやらかしながら何の疑問も持ちません。

非正規労働者のほうが諸外国の普通の働き方に近い

こういう日本的なメンバーシップ型の仕組みは、しかしながら、すべての労働者に適用されるわけではありません。

今や全労働者の4割近くがパートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣社員などと呼ばれるいわゆる非正規労働者ですが、彼ら彼女らは会社のメンバーシップを有しておらず、具体的な職務に基づいて、(多くの場合期間を定めた)雇用契約が結ばれます。そして労働関係の在り方を見ると、欧米やアジアなど日本以外の諸国における普通の労働者の働き方に近いのは、むしろこの非正規労働者のほうです。

彼ら彼女らは基本的に新卒採用という形ではなく、必要に応じて職務単位で採用されます。そしてその採用権限は、当該労働力を必要とする各職場の管理者に与えられています。

世間ではそれを就「職」とは呼びませんが、就「職」活動をしていると自らも周りからも思われている新卒学生たちよりもはるかに、言葉の正確な意味で就「職」をしていると言うべきでしょう。

職に就いているわけですから、職がなくなったら有期契約の雇止めという形で容易に雇用終了されますし、原則として人事異動はなく、契約の更新を繰り返しても同じ職務を続けるだけです。

彼ら彼女らは賃金も職務給です。実際は職務ごとに細かく決まっているというよりは、外部労働市場の需給状況に基づき、地域最低賃金にプラスアルファする形で決まっていることが多いのですが、職務に基づかないでヒトに値札を付ける年功賃金ではないという意味では、職務給だといって間違いではありません。

いくら契約更新を繰り返して事実上長期勤続になっても、それに応じて定期昇給していくことはありません。正社員に対して行われている人事査定もなく、ボーナスも退職金も福利厚生もないのが普通です。

もっとも、ここは近年の同一労働同一賃金政策で焦点になりつつある領域です。また最近では、時給幾らの非正規労働者にまで査定による細かな差をつけようという傾向がありますので、その意味では正社員化しつつあるのかもしれません。

彼ら彼女らは多くの場合、企業別組合の組合員資格が認められておらず、整理解雇4要件(人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履行、被解雇者選定の合理性、手続きの妥当性)の中には、正社員の雇用維持のために先に非正規労働者を雇止めすることすら規範化されていました。毎年の春闘による賃上げも正社員の賃金のみが対象で、非正規労働者の賃金は視野に入っていませんでした。

そもそも、企業利益の分け前としてのベースアップという概念は、分母も分子も正社員だけが対象であって、非正規労働者の賃金はそこに含まれていなかったと言うべきでしょう。では何かといえば、できる限り抑制すべき労働コストとみなされていたのです。