時間管理のテクニックを駆使してある程度の時間を生み出し、タスク管理のテクニックを使って向き合うべきアクションを明確にしても、実際に行動ができなければ元の木阿弥です。
時間管理とタスク管理は、それに次ぐ3本目の柱、集中力と先送りの防止に注意して、初めて実行力を生むことができます。
集中力については、私たちはモチベーション=やる気があれば集中できるはず、という単純な捉え方をすることがよくあります。これは一見正しそうにみえますが、同じ論理を逆からみて、集中するにはやる気が必要、と表現してみると急に怪しくなりはじめます。
やる気を生み出すために「うまくいったらこのような報酬を与えます」「うまくいかなかったら罰を与えます」といった外的な動機付けを与えても、なかなか思い通りに集中できなかったり、かえってやる気が失われたりといった経験をしたことがある人は多いでしょう。
やる気と集中力とは、燃料のように「やる気」をどこからか持ってきて燃焼させれば「集中力」が生まれるような関係にはなっていないのです。
これは、やる気と集中力の基本原理として覚えておきたいポイントです。
やる気にまつわる心理学の知見として近年注目されているのが、外から与えられる動機ではなく、私たちの内側からあふれ出る動機です。
人が完全に作業に没頭し、大きな喜びを感じて問題を解決している状態について長年研究してきた心理学者のミハイ・チクセントミハイ氏は、この現象を「フロー」あるいは「ゾーンに入っている」と名付けています。
フローに入った人は、作業そのものが楽しくやりがいのあるものだからこそ実行していると捉えられる、いわば「やる気」を自家発電している状態に達していますが、これは外的な理由で作業をするのとは逆の、内在的動機付けに突き動かされている状態と呼ばれています。
こうしたフローの状態に入るにはさまざまな条件が必要であることが研究でわかっていますが、特に重要なのが「チャレンジ・スキル・バランス」と呼ばれる、タスクの難易度と、自分自身のスキルとのバランスです。
タスクがあまりに難しく、スキルに対して無理なことを要求されているように感じるとき、人は不安に陥ります。逆にタスク自体が簡単すぎて、手応えがない場合には退屈が生まれます。
内在的動機付けが高まっている状態とは、タスクが明快で、やる意味が明確に感じられ、自分のスキルに対して過不足のない、バランスのとれた場所といっていいのです。
ダニエル・ピンク氏は著書『Drive』のなかでこれらの研究を総括して、私たちがやる気を感じられるのは、
の3条件をクリアしているときだと説いています。これらの条件は、ライフハックにおける基本的な考え方と整合していることに注目してください。ライフハックは、自分の裁量で時間の使い方を選び、長い目でみた目標に基づいてタスクを整理し、目的に合わせてツールを選ぶ能動性を重視しますが、これらは作業に対するやる気を支えるためでもあったのです。