ジェフ・ベゾスが祖母に放った「残酷すぎる一言」

ジェフ・ベゾスがプリンストン大学の卒業生に送った伝説のスピーチとは(写真:Andrew Harrer/Bloomberg)
アマゾン創業者のジェフ・ベゾス本人の言葉による初めての本として話題の『Invent & Wander──ジェフ・ベゾス Collected Writings』。序文を当代一の伝記作家ウォルター・アイザックソン氏が担当している。本稿では同書より、ベゾスがプリンストン大学の卒業生に向けて語ったスピーチを抜粋して紹介する。ある一言で祖母を泣かせてしまった、という自らの苦い経験の告白とともに語られる、次代を担う若者へのメッセージだ。

10歳のときの祖父母との旅

子どものころは毎年夏になると、テキサスにある祖父母の農場で過ごしました。風車を修理したり、家畜に予防注射をしたり、そのほかの雑用を手伝ったりしていました。午後は毎日昼メロを見ていました。とくに、「デイズ・オブ・アワ・ライブズ」は欠かさずに見たものです。

祖父母はキャラバンクラブという、エアストリーム社のキャンピングトレーラーを持っている人たちのグループに入っていて、メンバーと一緒にアメリカやカナダを旅行していました。その旅に、私たちもたまに連れていってもらうことがありました。トレーラーを祖父の車につないで、300台ものほかのトレーラーと列をなして旅に出かけるのです。

私は祖父母が大好きで、いつもこの旅をとても楽しみにしていました。ちょうど10歳ごろだったでしょうか、旅に連れ出してもらった私は広々とした後部座席で転げまわっていました。運転していたのは祖父です。祖母は助手席に座っていました。祖母は旅のあいだずっとタバコを吸っていて、私はそのにおいが嫌でした。

そのころの私は何かにつけてちょっとした計算をしては推測ごっこをして勝手に喜んでいました。ガソリンの燃費を計算したり、日用品の買い出しについてどうでもいい統計を考えてみたり。

そのときは、少し前に聞いた喫煙に反対する広告キャンペーンが頭に残っていました。細かいことは覚えていないのですが、タバコを吸うたびに寿命が縮むというような広告でした。たしかひと吸いで2分だったと思います。

そこで祖母のために計算してみることにしました。1日に吸うタバコの本数と、タバコ1本につき何回吸うかなど、およその数を計算しました。それらしい数になったので、前の座席に顔を突き出して祖母の肩を叩き、鼻高々にこう言いました。

「ひと吸いで2分なら、もう寿命が9年縮んだね!」

それからのことは、鮮明に脳裏に焼きついています。私にとっては思いがけない出来事でした。頭がいいね、よく計算できたねとほめてもらえると思っていたのです。「ジェフ、なんて賢い子なんだろう。ややこしい推測をして、1年が何分かを計算して、そこから割り算したんだね」なんて。

「賢いよりも優しいほうが難しいんだ」

でも違っていました。祖母がわっと泣き出したのです。私はどうしていいかわからず、ただ後部座席に座っていました。祖母が泣いている横で、祖父は黙って運転していましたが、高速道路の脇に車を止めました。祖父は車から出て後ろにまわり、後部座席のドアを開け、私が出てくるのを待っていました。叱られるのだろうか?

祖父は非常に知的で寡黙な人でした。厳しく叱られたことなどありません。でも今日、はじめて叱られるのかもしれない。車に戻って祖母に謝りなさいと言われるのかもしれない。

これまで祖父母とのあいだでこんな経験ははじめてで、どうなるのかまったく見当もつきませんでした。私と祖父はトレーラーの脇に立ち、向き合いました。祖父は私を見て、少し黙ったあと、優しく静かにこう言ったのです。