これらのツールのおかげで、グーグルはこれまでの15年間に何度も検索を変革し直してきた。そしてどの進化においても、現在のGoogleの最高経営責任者であるサンダー・ピチャイが不可欠だった。
2015年、アルファベットという株式会社が設立され、グーグルはその子会社となった。この新しい組織では、Google社を共同設立したラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンがアルファベットのCEO兼社長となり、それまでユーチューブ以外の同社製品すべてを担当していたピチャイがグーグルを指揮することになった。
アルファベットを構成する企業には、カリコ(グーグルの老化研究プロジェクト)、ライフサイエンス(グーグルのヘルステック研究グループで現在の名称はベリリー)、そして新たに精鋭化されて生まれ変わったグーグルなどが含まれる。
アルファベット体制で、創設者たちは大きな科学的プロジェクトと資本主義の混合体になっていたグーグルを再び本来の目標に集中させ、科学的プロジェクトは、より大きなアルファベット傘下の企業に分割することにした。アルファベット体制への再構築の動機は明らかだった。モバイルウェブが急速に時代遅れになっていた当時、伝統的な検索は役に立たなくなってきていたのだ。
一方、最初はみんなの笑いものだったアマゾンのAIデバイスのエコーは進化しつつあった。質問に答えることはグーグルの得意分野だが、アマゾンがそこに侵略しはじめていたのだ。グーグルは再び変革する必要があった。創業者たちからグーグルを引き継ぐとすぐ、ピチャイは社員たちに「AI第一主義」の導入を指示し、製品にAIを組み込むチャンスを逃さないようにと告げた。
グーグルのコラボレーションの文化は、ピチャイの指示が迅速に根づくために役立った。
たとえばグーグルの翻訳チームがAIモデルを使って、ある言語で書いた文が別の言語ではどうなるかの予測をすると、Gメールチームが、同じモデルを使って、電子メールを受け取ったとき、返答に使える短いAI生成文を提案するスマートリプライ機能を生み出した。
また、グーグルカレンダーと航空便の予約情報を共有するようになり、グーグルカレンダーはその情報を自動的に記録するようになった。グーグルフォトズは抱擁などのしぐさを判別できるようになり、しぐさをカギに写真を検索できるようになった。グーグル音声検索は、自然言語による質問に答えられるまでに進化した。
このようにしてグーグルは進歩を始めたが、この段階ではまだ一体になっているとはいえない状態だった。
アシスタントのプロジェクトは、スムーズに始まったとはいえなかった。当初の混とん状態を解消するため、ピチャイはグループや部門を超えたアイデアの流れを邪魔している障壁を取り除いた。さらにアシスタントチームをとりまとめ、時には25人以上にもなる会議で、何を構築しているのか、誰が何をつくるのか、何を優先させるのかについて、意見をまとめる力となった。
全員の意見が一致すると、ピチャイはグーグルでクロームを開発した際のやり方をもっと幅広く適用した。すなわち、まず明確な枠組みを設定したら、自分自身は支援に回り、社内で協力して開発するに任せたのだ。
そこからは事態が急速に進んだ。グーグル社内のコミュニケーションツールは、プロジェクトの各チームが新しい可能性に気づいたり、コラボレーションすべき相手を見つけたり、情報を共有したりすることに役立ち、アシスタントの開発を速めた。
それぞれのサービスをうまく調和させるために作業する一方で、各チームはアシスタント自体についての新しい課題にも取り組んだ。顔があったほうがいいか、名前はグーグルアシスタントにするか、それともほかの名前にすべきか、ユーモアのある受け答えをさせるべきかなどを論じあった。