あるIT企業の新事業プロジェクトを支援していたときのことです。企画部門のリーダーとサブリーダーでまとめたサービス企画の素案をもとに、会議で他のメンバーを交えたディスカッションを行いました。
素案では提供するサービスの価格を月額300円に設定していましたが、他のメンバーから「300円では正直高いと思う」や「他社サービスより優れているので1000円でも十分使われると思う」と、素案と異なる意見が出てきました。
リーダーとサブリーダーも初めのうちは、「なるほど!」「それはあるかもしれない」と盛り上がっていたのですが、「月額ではなく年額にできないか」や「オプションをつけて単価を上げられないか」など段々とさまざまな意見が錯綜しはじめ、情報を処理しきれなくなったのか、徐々に口数が減っていきました。
そうしてメンバーからの意見がひとしきり出そろったところで、会議の場は静まり返ります。その沈黙は、「私たちからは思ったことを伝えたけれど、この後どのように進めるのだろう?」というメンバーからの無言のプレッシャーのように私は受け取りました。
サブリーダーはその沈黙に耐えかねて、「みなさんからとても参考になる意見をいただきありがとうございます。さて、これをどうまとめましょうか」とリーダーへ言いました。リーダーは若干困った表情をしながら私に、「どうすればいいでしょうか」と助けを求めました。
素案に対して四方八方から意見が出てきてしまい、それを処理し切れず会議がフリーズしてしまうのはよく見る光景です。
これは、ディスカッションの内容を整理しないまま各々が思ったことを話してしまい、会議参加者の思考が発散してしまっている状態で、本質的には推進役の、出てきた意見を料理する技術に起因します(推進役については前回記事をご覧ください)。
推進役の技術レベルが低いと、推進役自身が「これだ!」と思える考えを持つことができず、出てきた意見のすべてを取り込もうとする、特定の人に偏った意見を採用する、多数決で決めるといった方法を取る傾向に陥りがちです。これでは、せっかくメンバーが考え出してくれた情報を十分に活かすことができません。
一方、上級者は出てきた意見やアイデアを要約したり、翻訳したり、整理(構造化)したりしながら、顧客や提供価値、実現する世界観のイメージの解像度を上げるような頭の使い方をします。