いろいろな本を読むけれど、そこに何かポリシーがあったほうがいい。たとえば自分なりにテーマを決めて、それを研究してみる。私のライフワークの1つは、村上春樹さんと大江健三郎さんの研究です。この2人の作家の作品は何回も読み返していますが、つねに新しい発見があります。
作品が発表された年代順にもう一度読む。小説だけでなくエッセイや対談も読む。村上春樹さんは海外小説の翻訳も数多く手がけていますから、その翻訳はもちろん、原著も読む。さらには村上春樹研究の本も読む。
大江健三郎さんは高校から大学のころにかけて熱中し、その後遠ざかっていましたが、最近また最初から読み始めています。こんなことをしていると、いくら時間があっても足りませんが、こんなふうに本を読むのは、過去を整理し、未来を考えるということにつながっていきます。
経営者の中には、塩野七生さんや司馬遼太郎さんを愛読書に挙げる人が多く、私はそれらも読みます。とくに塩野七生さんの本は西洋の歴史の勉強にもなります。やはりグローバル企業では、西洋の歴史やキリスト教の考え方を知らない限り、きっちりした仕事はできません。西洋を理解したいと思ったら、塩野七生さんがライフワークとしているギリシャやローマ、そしてキリスト教の世界を理解していないと、そこから発展する文化的背景が理解できない。欧米人のものの見方や発想を理解するためにも、教養としてこれらの本を読んでおくことをお勧めします。
私が50歳になる前くらいに、セゾングループでパルコの副社長になった森川茂治さんと話をしていて、こんなことを言われたことがあります。「60歳ぐらいで一線を退いたあとに、何か趣味でもやろうと思ってやってもうまくいかないよ。50歳になったら1年に1つずつ、一生続けられる趣味にトライしたほうがいい」。
1年に1つ、自分で掘り下げられそうなものを取り上げて、とりあえずやってみる。1年目でけっこうやれるのであれば、それに続けて、2つ目を足してみる。リタイアまでに10年猶予があれば、3つくらいは、本当にこれが趣味だと人に言えるようなもの、その世界でちゃんと仲間と交われるようなものができている。逆に言えば、そういうふうにしておかないと、60になって趣味を始めますと言っても、お仲間は誰もいないよと言われました。
では具体的には何から始めるかと言えば、20代のころにかじっていたことがいい。若いころはお金もないし、時間もないから、そのままにしているものがある。そういうものから始めたほうが、とっつきがいいと教えてくれました。私が大型バイクに乗り始めたのは、こういう理由もあるのです。
そういう意味では、20代、30代のうちに、何か仕事以外のことに触り始めておいたほうがいいと思います。おそらく若いときは、本当に時間もお金もないから、なかなか突き詰められない。突き詰めるというレベルまで到達するには、お金がないとできないことも多いものです。
仕事ももちろん大事ですが、ぜひ本格的に人に誇れるようなレベルの趣味を持ってほしいと思います。趣味に真剣に打ち込むことは、インテグリティを養ってくれるのです。
趣味に実益を求めすぎるのもよくないと思いますが、仕事以外にも夢中になれることがあると、自分を救ってくれます。基本的に、仕事というのはうまくいかないことが多いものです。傍目からは順調に見える人でも、問題を抱えていたり、失敗して悩んでいたり、葛藤を抱えていたりする。だから人生で仕事しかしていなかったら、精神を病みかねません。
私がバイクに乗っていたのは、2時間か3時間、バイクに乗っていると、その間だけは仕事のことが頭から抜けているからです。もちろん家に戻ってくると「ああ、まだあのことがあったんだ」と思い出すけれど、たとえ数時間だったとしても、完全に忘れたということが、心身の健康を保つにはいいのです。