締め切りは「守る」ではなく「延ばす」のがいいワケ

忙しさを理由に仕事を断ると、高い社会的コストがともなう……?(写真:Elnur/PIXTA)
ハーバード・ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーにして、心理学者のアシュリー・ウィランズが書いた『TIME SMART(タイム・スマート)』。効率性一辺倒ではない、異色の時間術の本だ。「お金より時間が大事」「生産性向上はタイム・リッチ(時間的に裕福な状態)から」「まず、健康で幸福な生活を送る、その後、生産性・創造性が上がる」と説く。もちろん、心理学者だから、科学的な調査、統計データでその主張を裏づける。一部を抜粋・編集してお届けする。

忙しさを理由に仕事を断るのは高くつく

「今、忙しいから」

こう言って、上司や同僚からの依頼を断るのは、当たり前のことに思えるかもしれない。あいにく、時間を理由にすると、高い社会的コストがともなう。時間を理由に依頼を断る人は、そうしない人ほど好感がもてず、信用できないと思われることを、私は共同研究者たちとともに突き止めた。

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これは、時間とは私たちが自分で管理できるものだと見なされているからだ。世界一忙しい人さえも含めて、私たち全員が同じように、1日に24時間をあてがわれている。だから、同僚に頼まれたときにそれに時間を使わないのは、本人の選択という印象を与える。

私たちは、お金の問題や元気がないことを理由に依頼を断る人や、まったく理由を言わない人に対してのほうが、ずっと前向きに反応する。だから、話し合いや会合、上司や同僚からの依頼をどうしても断らなければならないときには、家族の都合や思いがけない旅行といった、自分のコントロールの及ばない事情のせいであることをはっきりさせるようにするといい。

筆者がお勧めするのは、依頼にノーと言うときのための方針を立ておくこと。ある経営者は何か依頼があったときに、話し合いの依頼にはイエスと言い、行動の依頼にはノーと答えることにしていた。さらに、ノーを言うための標準的な理由を考えておきましょう。繰り返しになるが、「忙しい」「時間がない」は望ましくありません。金銭、健康、家族にまつわることを理由にするのが望ましい。

「締め切り」を延長したほうが成績がよい

依頼を断る代わりに、もっと時間を求めてもいい。

仕事では、締め切りが時間のストレスの大きな原因だ。自分のスケジュールを管理できていると感じるための単純で強力な手段に、調節可能な締め切りを先延ばしするというものがある。これは簡単そうに聞こえるけれど、私たちは締め切りの延長を求めるのを避けることが多い。

なぜなら、あまり有能ではなく、やる気がないように見えてしまうことを心配しているからだ。ところが、私たちはそんなふうに思われる可能性を過大評価している。

私が調査したところによると、締め切りが過ぎる前に、課題に取り組む時間の追加を求めているかぎり、じつはたいていの上司はその願いを受けたときのほうが、「やる気があるのだな」と思ってくれる。同僚や上司は、嫌な顔もせずに延長を認めてくれる可能性が高い。

逆に、ストレスを感じていながら、締め切りの融通が利く課題に、もっとかける時間を求めなかったときには、出来栄えがいまひとつのまま提出することになる。自分でも満足がいかないし、同僚や上司もがっかりさせてしまう。それこそ、避けようとしていたことにほかならないというのに。締め切りの延長を求めるのを避ければ、従業員の成績は落ちかねない。