医師からこれから行う治療について説明を受けた際、その説明書や同意書に書かれている治療の副作用が目に留まり、不安になった経験はありませんか?
例えば麻酔薬の使用によるアレルギーなど、数十万人に1人にしか起こらないような、まれな副作用であっても、いざ自身がその治療を受けるとなると自分がその数十万分の1に当てはまるのではないか、と不安になるものです。
このような治療についての説明は、インフォームドコンセントと呼ばれます。和訳は「説明と同意」であり、医師の説明と患者の同意の両方が成立することではじめて意味を持ちます。
インフォームドコンセントは近年、医療現場で重要視されるようになっており、その背景としては、医師と患者の関係性の変化が挙げられます。以前はパターナリズム(父権主義)と呼ばれるような、患者はすべて医師の言う通りに従うことが当たり前、という時代でした。しかし現在の医療現場では、これからどのような治療が行われ、その治療は何がリスクなのかを患者側も適切に理解し、疑問点を解消したうえで治療に同意することが、医療の透明性の確保や信頼関係の構築に繋がる、という考え方が主流です。
インフォームドコンセントは、リスクを事前にすべて説明することで訴訟を避けるというような単なる医師の保身ではなく、患者が自分の病状や治療についての「知る権利」を満たし、安心して治療を受けるための大切な方法なのです。
しかし一方で「知る」ことによって、むしろ患者の不安が増すケースがよく見られます。まれな副作用であれば、いっそ知らないほうが余計な心配なく治療を受けられる、という方もいらっしゃいます。安心して治療を受けるために説明を受けているはずなのに、このように不安になってしまうのはなぜなのでしょうか? これは、治療方針や副作用の知識そのものはインフォームドコンセントで得られますが、治療への不安はそれだけでは解消されないからです。
治療の説明を受けるからには「絶対に治るから大丈夫ですよ」と言われて安心感を得たいのに、不安を訴えても安心に足る確定的な返答を医師から貰えない場合もあります。なぜなら、医療行為に絶対はないため、100%トラブルなく病気が治るとはなかなか言えないからです。すると、不安を解消するためにインターネット等で病気の症状や治療方法を検索し、その結果リスクをあおる記事ばかりが目につき、さらに治療への不安が増してしまいます。
ただ患者が安心感・信頼感を得られるような説明や傾聴を行うのは医師の大切な役目のひとつですので、不安があれば納得するまで医師と話してみましょう。ささいな疑問だと思っても、気になったことは遠慮せず、医師に質問してみることが重要です。
そして、不安に思ったらまずはやみくもに検索せず、まずは自分の不安な気持ちと向き合いましょう。ひとりで抱え込まずに、家族や友人に相談するのも効果的です。
さらに、自身の気持ちの捉えかたを変えてみるのもひとつの方法です。例えば「生存率90%の手術」と「死亡率10%の手術」があったとき、前者のほうが手術を前向きに受ける気持ちになりませんか? 実際はどちらも同じことを言っているにもかかわらず、このように表現方法を変えるだけで受け取り方がガラリと変わる現象をフレーミング効果といいます。
「まれに起こる副作用」であれば「ほとんど起こらない副作用である」と自分の中で言い換えることで、不安感が軽減されるのではないでしょうか。