以前の職場で、いつも不機嫌な女性がいました。朝、「おはよう!」と言っても、無表情にあいさつするだけ。頼みごとをしても「私も忙しいんですけど」としぶしぶ。だれかがミスすると、「困るんですよね。ちゃんと責任とってください」と怒り出す。彼女がイライラし、ブツブツ言っていると、みんな「なにかあったかな?」「自分じゃないよね?」……と凍りつく状態でした。
不機嫌な人は、不機嫌が許される状況だから、不機嫌でいられるのです。周りが、自分の機嫌の悪さを察してくれるだろうという甘えがあるのかもしれません。
世の中の人間関係は、単純に「好き嫌い」の感情で動いています。私たちは理屈抜きに、明るくて機嫌のいい人が好き。不機嫌な人は好きになれない。他人は、すべてを受け入れてくれる人ばかりではありません。多くは、不機嫌な人を「できるだけ避けたい」と思います。それが人間の感情というもの。
それに不機嫌な人は、どんなに仕事ができたとしても、幼稚に見えてしまいます。嫌なことをすぐに顔に出したり、少しのことで騒いだり、人のミスを非難したりする姿は、精神的な学習をしてこなかったのかとさえ思われるでしょう。「愛されたい」との思いで不機嫌な態度をとっていても、不機嫌な人は愛されず、信頼もされないのです。
Jさんは、アパレル関係の会社を自分で立ち上げ、5人のスタッフと忙しい毎日を送っていました。業績も順調に伸び、いよいよこれから新しい事業展開をしようという矢先、大変なことが起こりました。スタッフが全員、会社に来なくなったのです。
「今日は大事な日なんだから、来てくれないと困るでしょう」と1人ひとりに電話しても、「もう、嫌です」と切られ、ついには着信拒否。
「どうしてこんなことになったのか」と考えると、その理由は明らかでした。「なぜ、こんなこともできないの!」「会社が忙しいんだから、休日出勤するのは当然でしょう」と、自分の都合ばかりを押しつけ、自分の夢にスタッフを付き合わせていたのです。会社の業務は立ちゆかなくなり、Jさんは会社を閉めることになりました。
数年後、また会社をおこしたJさんは、まったく怒ることはなくなりました。代わりに始めたのは、感謝の気持ちを伝えること。自分の周りにいるスタッフの夢をかなえようとすることです。夢と能力をもっている人に会社に入ってもらい、自分の夢を手伝ってもらう代わりに、スタッフの夢を会社のなかでサポートしていこうと決めたのでした。
Jさんの新しい会社のスタッフは、設立以来5年近く、ほとんど辞めていないそうです。積極的に働き、心からJさんを慕っています。「自分1人ではなにもできない。人から助けられている」と感謝すれば、それほどイライラすることはないはずです。