データが証明「YouTubeに食われる放送局」の実態

普及が進むスマートテレビの利用実態に迫ります(写真:simpson33/iStock)

近年、テレビ受像機をインターネットに接続し、YouTube(ユーチューブ)、Netflix(ネットフリックス)といった動画配信サービスを視聴する行為が普及していることが注目されている。IXT(現インテージ)が2021年4月に日本全国約6000名に対して行ったアンケート調査によれば、全国でおおよそ3人に1人がスマートテレビ(ネットに接続可能なテレビ受像機)をネットに接続して利用している。

スマートテレビでは、放送(本稿では地上波、BS、CSを総称して「放送」と呼ぶ)だけではなく、ネット経由でさまざまな動画配信サービスを視聴することが可能だ。スマートテレビを利用する視聴者にとって、テレビ受像機はすでに放送のみを視聴するデバイスではなく、「さまざまな動画を大画面で視聴するためのデバイス」になっているといえるだろう。

スマートテレビ100万台の視聴ログを解析

では、スマートテレビに搭載されているアプリでの視聴(本稿では配信動画や音楽などのネット経由のコンテンツ全体を総称して「アプリ」と呼ぶ)はどこまで普及しており、従来からある放送の視聴との関係はどのようになっているだろうか。

ここではマーケティング利用の許可を得て収集されたインテージのスマートテレビ視聴データ「Media Gauge(メディアゲージ)」の中で、アプリも含めて分析可能な約100万台(2021年3月時点)の視聴ログを分析し、スマートテレビでのアプリ視聴の普及と利用実態をみていくことで、複雑化するメディア視聴環境を理解する手がかりとしたい。

まずはスマートテレビの電源が入っている時間に対する放送、アプリ、その他(録画視聴、ゲーム機やグーグルのChromecast(クロームキャスト)などのストリーミングデバイスの利用など)の1日当たりの平均視聴時間の推移を見ていこう。

データからは、放送の視聴時間に置き換わるかたちでアプリの視聴が急速に普及していることが明らかだ。テレビの電源が入っている時間(放送+アプリ+その他の合計)はおおよそ7~8時間前後で推移しており大きな変化がなかった一方、放送の視聴時間は少しずつ減少し、アプリの視聴時間がそれに置き換わっている。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、2020年以降、放送の視聴時間の減少はおさまっているものの(2021年3月時点で4時間20分)、アプリの視聴時間は増加し続け(2021年3月時点で1時間40分)、両者の差は縮まり続けている。

放送とアプリの利用率はまったく違う動き

では、スマートテレビでのアプリ視聴は特にどの時間帯に普及しており、放送の視聴とどのような関係にあるだろうか。

平日と土日のそれぞれについて放送とアプリの10分単位での利用率を見てみると、放送の利用率は朝、昼、夜のはっきりした3つのピークがあることが分かる。多くの人がこの時間帯に食事をしながら、家族と共にテレビを視聴している傾向が想像できるだろう。

一方で、アプリの利用率には放送のようなはっきりしたピークがない。平日は20時ごろ、土日は16時ごろが最も利用率の高い時間帯だが、深夜と早朝を除けばどの時間帯にもまんべんなく一定の利用率がある。

そのため放送の利用率が相対的に低い10時~11時台、14時~17時台にアプリの利用率が放送の利用率に接近している。深夜以外はどの時間帯でも放送の利用率がアプリの利用率を上回っているものの、スマートテレビでのアプリ視聴は幅広い時間帯で普及し、とくに放送の利用率が低い一部の時間帯では、すでに放送に並ぶ有力な選択肢になっていると言える。