この世界的な規制の動きに素早く反応したのがプラットフォーマー、その中でもサードパーティークッキー関連情報の「大口提供者」であり、Safari、Chromeいうブラウザで世界シェアの約9割を占めるAppleとGoogleだ。AppleはすでにSafariでのサードパーティークッキーによるサポートを2020年3月に廃止しており、Googleも2023年を目処に廃止する予定である。
まさにクッキーレス時代の到来である。
クッキーレスがインターネット広告を出稿する企業にもたらす最大の打撃は「見込み客が見えなくなる」ことである。
広告を出稿する企業の多くはサードパーティークッキーを活用し、インターネット広告事業者などを通じて、インターネット上の行動履歴データを「広告サービスの一環として」得ている。
サードパーティークッキーを使えば、広告を通じてユーザを商品販売サイトなどにどれくらい誘引できたのか、誘引してどれくらいの時間滞在してもらえたのか、その結果どれくらい販売に繋げることができたのか、といった数値が自動的に取れる。だから、どのプロセスに課題があるかも一目瞭然である。
しかし、クッキーでユーザと行動をセットにしてサイトをまたいで追えなくなれば、自社のサイトを訪問しそうなユーザはもちろん、頻繁に訪問しているユーザすら、今までのように簡単に判別できなくなる可能性が高いのだ。
クッキーを代替する技術としては、スマートフォンやパソコンといった機器とブラウザの設定情報などをもとに独自のIDを生成するものなどがあるが、ユーザを特定する精度や活用の利便性において、今のところクッキーには及ばない。
クッキーレス時代のインターネット広告は、テレビや新聞などの「マス広告」と、効果測定の精度がそれほど変わらなくなることを覚悟しなければならない。
ただし、実名で多くの会員を持ち、会員が投稿や意思表明した「リッチな」情報をもとに広告を出せるFacebookとLINEなどSNSは別格であり、クッキーレス化から受ける影響を軽微に抑えるであろう。
だからこそ予想されるのは、クッキーレス化で行き場を失った「今まで通りユーザを特定したい」広告主が殺到し、広告枠の高騰することである。
クッキーレス時代にインターネット広告を出したい企業は、「精度の低い広告」か「精度は高いが費用も高い広告」の二者択一を迫られる。
クッキーレス化で「ゲームのルールが変わる」ことをご理解頂けたであろうか。
本格的なクッキーレス時代を迎える前に、インターネット広告を活用する企業が取るべき方策は、サードパーティークッキーを使わない広告手段への早期かつ段階的な移行である。
その手段とは、「コンテキストマッチング」というインターネット広告の技術である。
コンテキストマッチングとは広告の先にあるコンテンツの文脈(コンテキスト)を把握して適合(マッチング)させることを意味する。コンテキストマッチング広告は、広告と広告の掲載先、広告によって誘引するサイトとの相性を分析して、広告主の希望するターゲットにマッチングする手法である。広告および広告が露出するコンテンツ(記事やコラムなど)と、広告によって実際に誘引されたサイトのテキスト情報を分析し、興味・関心でユーザをグループ化する。
たとえば、ダイエットの記事を読んでいる人が、記事で「食事」「糖質制限」といったワードを目にするときに、「オートミール」などの広告を表示させるといった手法だ。
コンテキストマッチング広告を出しながら、自社商品・サービスのマーケティングやブランディングに必要な情報を独自に把握して、インターネット広告や自社サイトの企画立案に活かせる体制を確立するのも一手だ。
また、従来のアンケート情報など、ユーザから使用許諾を取った社内外のデータと組み合わせて自社で分析することで、インターネット広告や自社サイトの更新などにタイムリーに活用することも必要だろう。
インターネット広告業界の「大激震」から受ける負のインパクトを、最小限に抑える備えを始めるのは、早いに越したことはない。