小説家が暴露「映像化で本は売れない」残念な実態

原作本がもっと売れているのなら、それは小説自体の力なのです。映画化あるいはドラマ化と書かれた「帯の効果」のみに限定すれば、本の売り上げへの影響は微々たるものということです。

この事実をよく理解しておきましょう。たとえ映像化が実現しても、ベストセラーが確約されるわけではありません。「そうは言っても映像化がないよりは大きく儲かるだろう」と期待しがちですが、実際に映像化されたものの、文庫で1万部程度の重版のみ、100万円以下の儲けに留まることはざらにあります。文学賞の受賞を機に、出版社は受賞作を重版しますが、必ずしも売れるわけではないのと似ています。

映画が大ヒットした場合、原作本の売り上げが伸びるのは確かです。しかしいかに規模の大きな映画公開やドラマ放送であっても、ヒットしなかった場合には、原作本の売れ行きにも悪影響が生じます。小説の評価がどんなに高かろうが、さかんに宣伝された映像版が商業的に失敗すれば、まさしく「吹いていた風がぱたりと止まる」ように、原作本も売れなくなります。

「映像化がないよりまし」などころか、原作者として受けるダメージは相当大きくなります。特に出版社がベストセラーをあてこんで多く増刷していると、大量の在庫を抱えることになってしまいます。それらのほとんどが中古市場に流れ、商業出版としての原作本は、ほぼ死んだも同然の状況と化します。

映像化は小説にとって最大のプロモーションですが、原作本の価値は小説の出来不出来にかかわらず、映像版の商業的成功または失敗に左右されます。小説家にとっては甚だ不本意なことであり、理不尽な状況に思えますが、だからといって映像化自体を無下に断ってしまうのは、せっかくのチャンスを逃すことになります。

このように映像化は、プラスにもマイナスにも働きうるギャンブル的側面があることを理解しておきましょう。貴方自身が現金を賭けるわけでなくとも、ある意味で現金以上に重要な、自分の作品を賭けるのです。それが勝ち馬に化けるかどうかは、映像版の作り手しだいです。勝敗が将来にわたる収入額にも関わってきます。

映像化オプション契約とは

出版社が映像化企画書を吟味し、ビジネスとして進める価値があると判断すると、原作使用に関するオプション契約が交わされます。

これは「今後一定期間、○社(映画会社やテレビ局)に映像化の独占権を与える」とする契約で、まだ映像化が確定したわけではありません。

映画化での原作使用料は100万円から200万円ぐらい、最大でも約400万円で、もちろん源泉徴収もされます。契約を結んだ時点で半額をもらえます。映像化が成立したら残る半額も支払われます。最初にもらった半額は、たとえ映像化が果たされなかった場合でも返す必要はありません。

原作使用料のうち、小説家に代わって製作側とやりとりしている出版社が、手数料として3割ほどを受け取ります。これは小説家と出版社間の協議で決めることです。

原作者が映像化それ自体から受けとれるお金は、原則的にこのオプション契約時に支払いが約束された、前払い金と後払い金がすべてです。「映画が大ヒットしたのに、原作者は数百万円しかもらえなかった」ということを避けるためにも、映画の興行から歩合をもらいたければ、この時点で編集者にそのように伝え、契約書に盛りこんでくれるよう要請します。

しかし通常は、まだ絵に描いた餅としか思えない段階の映像化企画に対し、歩合の要求をする原作者は稀です。実際のところ原作者が「興行収入から歩合をもらいたい」と言いだした時点で、製作者側が二の足を踏むことは充分に考えられます。

原作者が「どうしても譲れない」と強気な態度を示せば、契約自体がご破算になるかもしれません。企画が流れてしまうことを恐れ、原作者は金額がどうあれ、契約を結ぼうとする場合がほとんどです。こうした駆け引きもあってのオプション契約です。締結後に文句を言うものではありません。