最近は投手が投げるボールの「回転」「回転速度」「回転軸」、そして「球の軌道」といった球質を測定するトラッキング・システムが日米のプロ野球で普及し、客観的に投球を評価できるようになりました。
とくにボールの回転速度は、昔から何となく「キレがある」「スピンの利いた」などと、投球を評価する中で言われてきました。この回転速度を数値として表せるようになったのは画期的なことです。
しかし、このような球質は専門家でもその評価が難しく、良しあしを述べる際は注意が必要です。詳しい理論はほかの書籍を見ていただくとして、ここでは野球指導の中で「どのように生かすべきか」を述べたいと思います。
まずは根底にある理論を、確認しておきましょう。
回転するボールは、マグヌス効果によって軌道が変化します。つまり曲がります。そのため、投手は「自分が曲げたい方向にボールを回転させる」ことがポイントです。
投手が変化球を投げるときに考えることは、大きく分けると以下のような2つでしょう。
たとえば、代表的な変化球であるカーブの球速は遅いですが、大きく曲がります。そのために打者の目が惑わされます。
一方、スライダーの球速は速いので、打者は「ストレートだ」と思って振りに行きます。すると途中で曲がるために打ちにくいのです。つまり、一口に変化球と言っても、その効果はさまざまで、「これが正しい」とは言えないのが難しいところです。
また、変化球の分析でさらに難しいのは回転軸です。図3-1のように、ボールの回転は「投手側から見た視点」と「上から見た視点」が重要です。この組み合わせによって「変化が異なる」ことがわかってきました。
まず、投手側から見た視点です。投手側から見える回転は打者にも見えます。打者は向かってくるボールを見ることで、どのように回転しているかがわかります。
代表的な回転はバック・スピンとトップ・スピンです。バック・スピンがかかったボールは、「上に上がる」ように見える「伸びがある」ボールです。実際には重力のほうが勝っているので、「上に上がるように見える」だけですが、前述のように、無回転のボールよりは上に上がります。
バック・スピンがかかったボールは、投手から見て水平(真横)に回転軸があります。投手が指ではじくようにリリースすると、投手から見て図3-1の中の①のbのような回転がかかります。トップ・スピンは、バック・スピンの逆です。
投手から見て垂直(まっすぐ)に回転軸があるのがサイド・スピンです②。サイド・スピンがかかったボールは、打者から見て横に曲がります。右投手のスライダーは②のaの回転をするということを理解できるでしょうか?
ここまではそう難しくないのですが、投手の投球を立体的な視点で見ると、「上から見たときの回転軸」というのも大切です。これがジャイロ・スピン、ジャイロ・スピン成分と言われるものです。