昨年秋に出版された、YOASOBIの楽曲のもとになった作品をまとめた小説集『夜に駆ける YOASOBI小説集』は、10万部を突破。ロングセラーとなっている。鈴木氏は、YOASOBIは出版業界と音楽業界のブリッジ役となり、音楽の価値を高めている存在だと絶賛する。
「これまでも、ドラマやアニメの主題歌など、物語やキャラクターを基に音楽を作ることはたくさんありましたよね。けど、スーパーアナログなテキスト小説から着想して楽曲を作り込んでいくのが斬新でした。
サブスクリプションサービスが台頭し、歌詞カードを開きながら音楽をじっくりと聴く機会がなくなってきた若い世代が、YOASOBIをきっかけに、『音楽を聴いて、物語を聴いて、また歌詞を噛み締めて音楽をじっくり聴く』という行動をするようになった。これは、すごいことですよ」
もともと、YOASOBIのコンポーザーであるAyase氏は、ボカロPとして人気を博した人物。2018年からボーカロイドを用いた楽曲動画の投稿を開始し、翌年にはニコニコ動画で殿堂入りも果たしている。YOASOBIを組んだことによって、新たなキャリアを切り開いた。
「いい曲を連続リリースできるのは、いきなり出てきたわけじゃなくて、才能とアイデア貯金があるからこそ。YOASOBIが売れたことによって、ボカロPの人たちの結界を破ったと思います。
アニソンが日本の音楽のセンターになったような現象が、今後ボカロ界隈にも起こるでしょう。ネットで自由に音楽を作って発表してきた人が、どんどん見つかってマネタイズされていくはず。これまでは、ボカロはどんなにヒットしても『異色のもの』として扱われていましたが、米津玄師さんも国民的ヒットを連発しましたし、これからもっと増えてくるでしょう。一過性のブームではなく、ひとつの時代になりそうです」(鈴木氏)
鈴木氏は2021年2月、絵本『ハルカと月の王子さま』を上梓した。物語の主人公は、10代の女性・遥が雑貨屋で購入した、マグカップだ。遥の初恋から受験、そして結婚出産や悲しい出来事を、マグカップの視点から描いている。