「厳しい変更を余儀なくされたが、プロ野球としては対象地域の試合を無観客という選択をしました。ただ今回はあくまでも例外的選択となります」
3度目の緊急事態宣言発出に伴って、一部の公式戦を無観客試合にすると4月24日に発表した日本野球機構(NPB)の斉藤惇コミッショナーのコメントは苦渋に満ちていた。
NPBはここまで政府の感染症対策に積極的に協力し、昨年の開幕戦も3カ月遅らせ、試合数も143試合から120試合に短縮。無観客から動員数を制限しての試合実施など、打てる手は打ってきた。
斉藤コミッショナーは「相応のコストをかけて防疫態勢を繰り返してきた。(無観客は)あくまで例外的。基本は有観客のもの。政府や自治体も我々が苦渋の選択に至った経緯をどうか理解していただきたい」と語気を強めた。
その背景には、「この状況がこれ以上続けば、NPBはもう持たない」という深刻な危機感がある。
新型コロナ禍でNPB球団が受けた経営面でのダメージについて、観客動員の推移を基に具体的に見ていこう。
前述したように、昨年は各チームの試合数が143試合から120試合に圧縮された。開幕した6月19日から7月9日までは無観客で行われ、以後は5000人から球場のキャパシティの50%程度までの入場制限をかけて試合が行われた。
2019年は12球団で史上最多の2653万人余を動員したが、2020年は482万人。18%にとどまった。来場者の客単価を2500円とすると、2019年は663億円余の売り上げがあったが、2020年は120億円に減っている。単純計算で各球団平均で約45億円の減収となる。
今季は、開幕から制限付きで観客を動員しているが、それでも2019年の3割強で推移している。143試合を消化したとしても、2020年に続いて2019年比で大幅な減収になるのは確実だ。
プロ野球の収益には、入場料に加え、球場での物販、球団グッズなどのライセンス、放映権、そしてスポンサー収入などがある。
新型コロナ禍によって入場料、物販収入が激減しても、その他の収益はそこまで減少しないと思われるが、それでもほとんどの球団で昨年は最終赤字になったと思われる。
よく知られているように1954年8月10日の以下の国税庁通達によって、親会社が球団の損失を補填した場合は「広告宣伝費」とみなすことが認められている。
親会社が支援しやすいルールになっているのだ。しかし広島は独立採算制で、連結決算に連なる親会社は存在しない。また、親会社との関係が実質的に「ネーミングライツ」のようになっていて、損失補填をしない契約になっている球団もあると言われる。
それに数十億円という欠損金は、親会社にしても簡単に負担できる額ではない。新型コロナ禍で業績不振にあえいでいる親会社もあるのだ。これが2年連続となればなおさら状況は厳しくなる。このままいけば、オフに球界再編が出来する可能性もあるだろう。