まだYouTubeを軽く見る人が知らない地殻変動

視聴率が指標だった結果

テレビの世界の指標は、ビデオリサーチの世帯視聴率だった。世帯視聴率を上げるためには、F3層(50歳以上の女性)がカギなので、必然的に制作サイドもそこを狙うことになったという。

「テレビは巨大メディアなのに、データが視聴率しかありませんでした。僕もずっと疑問だったし、『せめて、個人視聴率を重視して、テレビのターゲット年齢を下げられないか?』と思っていたんですが、特性としては仕方なかったんです。

2000年代以降、インターネットが若年層の間でどんどん盛り上がっていったのに、テレビではハイターゲットの番組ばかりが増えていく。そのうち、『ネットならターゲットを明確にしてCMを打てる』という考えが広まってきました」

現在はTVerの再生数やTwitterトレンド入りが重視されているというが、まだまだ一番大事なのが視聴率。テレビはスポンサー企業から収入を得ているが、クライアントにもわかりやすい視聴率という指標に沿って動かなければならない、というわけだ。

しかし、ネットへの広告出稿がどんどん増え、テレビへの出稿は縮小、結果として制作費が減少している。YouTubeも台頭し、番組制作サイドも頭を抱えるようになったのだという。

「予算縮小で、ひな壇にタレントさんをたくさん呼ぶような番組はやりにくくなったし、コンプライアンスも規制が厳しくなってきました。かつて『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)でブラックメールというドッキリ企画が大人気でしたが、今やろうとすると怒られると思いますよ。ドッキリについても、土俵が狭くなっているんです。

ただ、予算が下がったといっても、500万円以上かけてコンテンツを作るのって、ネットだと大変ですよね。良質なドキュメンタリー番組や大御所のトーク番組など、スタッフがいっぱいいるからこそできるものはあります。ドラマもそう。もちろん、作った後にNetflixやアマゾン・プライム・ビデオなどで配信されることも多いし、テレビは第1ステーションでしかないかもしれないけれど、いまだに多くの人に届くテレビの力はすごいです」

テレビ局に今必要なこと

鈴木おさむさんが今年出版した絵本『ハルカと月の王子さま』(双葉社)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。

鈴木氏は「テレビ局はふんばりどころだからこそ、改めてスタッフを大切にしなければならない」とも語る。

「ここ数年くらい、テレビはネットで流行ったものをどんどん紹介するじゃないですか。まあ、それはそれでいいんですけど、ネットがメインで、テレビがサブになっちゃうんですよね。

これからのテレビは、作家性が大事だと思います。TBSテレビの藤井健太郎くんや、もう退職しちゃったけどテレビ東京の佐久間宣行さんみたいに、クセがあるものを作るのがうまい人っているんですよ。中には会社と反りが合わなくてハマらなかったパターンもあります。テレビ局は今こそ、独自のコンテンツを作れる作家を大切にしたほうがいいと思います」

(次回に続く)