「やらされSDGs」多い日本企業に欠けた重大視点

また、ドイツの総合化学メーカーのBASFは、環境・社会に貢献する企業が長期的に成長できるという考えのもと、バリューチェーン全体を通じて生み出した環境・社会面の価値を金額換算して見える化する「バリュー・トゥ・ソサエティー(社会への価値)」と名づけた取り組みを通じて、経営戦略、事業ポートフォリオ戦略、商品ポートフォリオの入れ替え、研究開発などに関する意思決定に反映させている。

未来志向型の企業は環境・社会の動きに呼応し、将来に向けて事業をダイナミックに変革している。

④ミッション・ドリブン型

内発的対応の一つだが、未来志向型の延長線上にあるものではない。その企業が掲げるミッション・ビジョンそのものが「環境・社会に関わる課題の解決」であり、企業トップが「このような社会の課題を解決したい」という強い信念を持ち、トップの(時にカリスマ的な)リーダーシップを原動力に、事業を推進している型のことだ。

例えば、創業時のミッション・ビジョンに、アメリカの電気自動車大手のテスラは「できるだけ早く大衆市場に高性能な電気自動車を導入することで、持続可能な輸送手段の台頭を加速する」、植物由来の人工肉などを製造・開発するインポッシブル・フーズは、「動物から食料をつくる必要をなくすことにより、世界の食料システムを真に持続可能なものにする」を掲げた。

1973年に設立されたアメリカのアウトドア用品製造・販売のパタゴニアは早くも1990年代に「最高の商品をつくり、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」とのミッションステートメントをつくり、2018年に「私たちは故郷である地球を救うためにビジネスを営む」に進化させた。

アメリカのタイルカーペット販売のインターフェイスは1994年に「2020年までに環境への負荷をゼロにする」とのビジョンを掲げ、経営を変革してきた。

ミッション・ドリブン型では、その会社のすべての事業が「ミッション」を実現するために存在し、「ミッションへ貢献するかどうか」が「採算性」と同じレベルで重要性を持つ。

歴史を持つ大企業は「未来志向型」へ移行すべき

テスラやインポッシブル・フーズのように、創業時から環境・社会課題解決をミッションに掲げる企業が多い一方で、パタゴニアのように創業から一定期間を経たあとであらためてミッションを掲げる企業や、インターフェイスのように何らかのきっかけ(創業者が1冊の本に感銘を受けた)で環境・社会課題解決に目覚める企業もある。カリスマ的リーダーとして知られるパタゴニアやインターフェイスの創業者はすでに退任しているが、その思いは従業員に脈々と受け継がれている。

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ここまで説明した4つの型のなかでは、「④ミッション・ドリブン型」がサステナビリティ経営の実現には最も理想的だ。しかし、創業からの長い歴史を持つ多くの大企業は、事業ポートフォリオがバラエティーに富み、数多くのステークホルダーとの関係がある。そのため、大胆に事業を変え、「ミッション最優先」に経営の舵を切っていくことは現実的に難しい。

サステナビリティ経営の4つの型を紹介してきたが、企業は「①インシデント型」から「②外部要請型」または「③未来志向型」へ、もしくは「②外部要請型」から「③未来志向型」へと、変化していくことが多い。

例えば、インシデントによる株価の下落や、不買運動で売り上げが減少した企業の中には、その後、環境・社会問題の重要性を認識し、今では「③未来志向型」の企業として業界をリードする企業となった例も少なくない。

これからの新しい時代に力強く成長しようと思うなら、外発的な「やらされサステナビリティ経営」からいち早く脱却し、自分たちの意志による「③未来志向型」のサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)への移行が不可欠だ。