親など大人に何かを自分から言ったとしても、結局、「それはダメだから」とか「何とかしなさい」と言われて終わってしまう。そして、「自分がどうしたいから、これをやったのか」とか「なんでこれをしたのか」といった理由には触れずじまいになる。結果として、自己主張することがすごく苦手になってしまいます。
ですので、そのまま大人になって、急に自己の意見を出せと言われても、それは無理な話です。なかなか人には伝えられない、自己主張できなくなっているんです。
そんな中で、SNSという空間では、相手が不特定なので自分自身を吐き出すことができる。SNSは匿名性があるので、そういう人がますます集まってくるわけです。そうすると、心理学的に「リスキーシフト」という言葉があるのですが、匿名性がある中で、どんどん考えが偏っていく。そして、「私みたいな人がこんなにたくさんいる」と同調し、気持ちがさらに膨らんでいく。こうしたことが若者のメンタルにも影響していると思います。
──「ネットいじめ」の問題もそうした背景があるように感じます。私がかつて留学していたアメリカでは、みんなの前で自己主張ができる若者を育てるために、スピーチやディベートの教育を実践していたことを思い出しました。日本も早い段階からその実践教育をやるといいでしょうか。
大事だと思います。日頃スポーツメンタルの分野にも関わっているのですが、子どもたちには最初に「自分の長所と短所を言って」と聞くようにしています。
すると日本人は長所が言えないんです。自慢していると周囲に思われるから、遠慮して言えないんです。自分のアピールをすることがすごく苦手。日本は謙遜の文化で、自分の長所を言ったら「出る杭は打たれる」というような雰囲気があり、これは子どもの世界にもあります。
無理してアピールする必要はないかもしれませんが、自分の長所という事実があるのであれば、それはありのままの自分ですから、隠す必要もないと思います。
そうしていく弊害は、自分のよい部分も見つけようともしなくなることです。悪いことばかり気にかける。そういう日本の文化には問題があるように思います。若者が「私っていう存在がいてもいいんだ。私ってこんなすごいことがあるんだ」というふうに思えなくなりかねない、1つの原因かなと思います。
──確かに私もアメリカでは自分の長所を隠すどころか、Sell yourself!(自分を売り込め!)の精神を教わりました。あと、日本では人と違ったことをすると、「人様に迷惑をかけるからやめなさい」と親に言われることが多いと思うのですが、英語のmake a difference(違いを見せる)は人と違ったことをしてよいといったポジティブな意味があります。大きな違いですね。
そうですね。日本では個性的という言葉がよい意味で使われないことが多いですよね。
──コロナによる影響もあると思われる中、若者はメンタルヘルスをどのように良好に改善していったらいいのでしょうか。長期と短期でいろいろと対策があるとは思うのですが。
長期的な面でいえば、やはり自分の意見をきちんと言える子どもたちを育てることが重要だと思います。私の患者さんは結構10代が多いのです。彼ら彼女らは「生きている意味がわからない」とよく言っています。
──その子たちの家庭の状況はどうなのでしょうか。
とくにそうした問題はない家庭のお子さんも多いのです。以前でしたら、家庭が崩壊している子が多かったのですが、最近はそうでもありません。
先ほどの「うっせぇわ」の曲のように、優等生でいた子は、あれしなさい、これしなさいと言われて生きてきた結果、自分が何をしたいかということに向き合わないできた子がとても多くいます。優等生で褒められて生きてきた分、なんとなく自分は何でもできると思っている場合もあります。