サッカーとラグビー「異例タッグ」実現の深い訳

グランパスが開催したイベントに、ヴェルブリッツの選手が参加した(C)N.G.E.

新型コロナウイルスの影響でスポーツ界は依然として大きな影響を受けている。2月末で首都圏を除く地域の緊急事態宣言が解除されたものの、外国人入国制限はいまだ緩和されず、アスリートトラック(スポーツ入国特例)再開もメドが立っていない。4カ月後に迫った東京五輪がどのような形で開催されるのかも未知数な状況と言っていい。

自国開催の2019年ワールドカップでベスト8入りするなど、国民に勇気と希望を与えたラグビー界も1月16日に開幕予定だった2021年トップリーグを2月20日に変更してスタート。2022年1月の新リーグ発足に向けて本格的な準備が進みつつある。

しかしながら、日本ラグビー協会や大企業中心に長年、運営されてきたリーグをプロ化するのは容易ではない。チケット販売1つとっても、これまでは協会主体のセールスになっていて、各チームが個別販売や集客努力をするという概念が乏しかった。

チケット販売ノウハウなど提供

そんな中、いち早く動いたのが、トヨタ自動車ラグビー部「トヨタ自動車ヴェルブリッツ」だ。彼らは同じ敷地内に練習拠点を置くJリーグ・名古屋グランパスが1993年から蓄積してきたチケット販売や集客努力などのノウハウに着目。名古屋側も協力関係構築に前向きで、2020年からマーケティング連携パートナーシップ締結に向けて少しずつ話を進めてきた。それが2月に具体化し、正式発表するに至ったという。

名古屋グランパスエイトの清水克洋専務(C)N.G.E.

提携の経緯を名古屋の清水克洋専務が次のように説明する。
「同じトヨタスポーツセンターで活動しているヴェルブリッツさんから『新リーグ発足に向けて準備を進める中で、チケット販売やマーチャンダイジング、ファンクラブ運営などを多角的にアドバイスしてほしい』と打診を受けたのが始まりです。

新リーグではチケットのプラットフォームを新しくする方向で、われわれのノウハウが役に立つと考え、快くお引き受けしました。どういうチケット販売方法が望ましいかから逆算し、新リーグのシステムをベースにどのようなヴェルブリッツのシステムを作るかをご一緒に考えるのが第一歩。今はグランパスのチケットオペレーション企業で長く働いていたスタッフを1人派遣して、具体的に動いてもらっています」

Jリーグの場合、チケット購入時には「JリーグID」を登録する仕組みになっている。購入者情報が蓄積され、その後の来場喚起などに役立てられるようになっている。名古屋も現時点で約20万人分の顧客情報があり、その分析結果に基づいた企画立案や試合誘導ができるようになっている。

昨年からのコロナ禍で最大でもスタジアム収容規模の50%しかチケット販売ができない悩みはあるものの、こうしたデータを駆使しながら可能な限りの策を講じた結果、2020年の名古屋はホーム平均観客8557人と首都圏の大スタジアムをホームとする浦和レッズや横浜F・マリノスを抑えて1位に躍り出た。

コロナ禍での来場喚起策

「昨季はコロナの影響を踏まえて収容規模の40%を上限にしたクラブもあり、必ずしもわれわれがトップだったとは言い切れない部分もあるのですが、感染対策を徹底して安心安全のスタジアムにする努力は怠りませんでしたし、顧客の来場傾向を見ながら、メールなどでの個別のアプローチも展開しました。

J1ホーム18試合を見ると、人気カードとそれ以外がどうしても出てきます。開幕戦や大型連休、夏休みなどは自然と観客数が増えますが、平日夜の試合だと集客に苦労することもある。そこである試合の来場者にそれ以外の試合もお得に観戦してもらうサービスなどを提供し、来場喚起を図ってきました」と清水専務は努力の重要性を口にする。