ほかにも様々な有名人の言動が記事化されているが、もはやコタツ記事を量産するメディアにとって、「ウォッチすべき番組」や「ウォッチすべき人物」は固定されている。
とりあえずワイドショーのコメンテーターや、Twitterで過激な発言が目立つ有名人の発言を正確にメモして、SNSで騒動になった直後に記事化すれば、大量にPVを稼げる。うまくいけば1本の記事で百万円単位の儲けが出ることもある。
さらに記事にかかる費用は、数千円から~1万円程度の原稿料のみ。儲けを優先するならば、これをやらない手はない。結果、ネットニュース業界はコタツ記事だらけになってしまった。
現状を憂いた私は以前、テレビ局の人間に「勝手におたくらの番組を使って、PV稼ぎをしているメディアがありますよ。訴えるか、それとも彼らがPVで得た収益の何%かを請求してはどうですか?」と提案してみた。
しかし、返ってきた答えは何とも脱力するものだった。
「そうは言っても中川さん、社内に『宣伝になるから放っておけ』って言う人も多いんですよ……。僕も本当は使用料を取るべきだと思っていますし、番組の発言を切り取った記事をきっかけに、視聴者が増えるとも思わないのですが……」
当事者への取材や、深い考察もないコタツ記事。それらを一掃するには、提携しているサイト、特に日本最大のポータルサイトであるYahoo!ニュースが配信を拒否すればいいだけなのだが、現状、改善される動きはない。
【問題その2:記事の均質化】
PVを集めるための成功法則が1つある。それは、「1次情報でPVが多かった記事や、多くシェアされた記事に関連したものを即座に出す」ことだ。
たとえば、とある日の午前中に「阪神のジャスティン・ボーアが惜しまれながらも退団へ」というストレートニュースが爆発的に読まれ、Yahoo!ニュースのコメント欄やツイッター、5ちゃんねるでも大きな話題になっていたとする。
ネットでの反応を見ると、「まだ1年で切るのは早い」「あのパワーは2年目に覚醒する可能性があるから勿体ない」というものが多い。さらに、ボーアは真面目で日本に溶け込もうと努力している様が見えること、ホームランの後の「ファイヤーボールパフォーマンス」など明るい性格がファンに受けていることもわかる。
となると、優秀な編集者は何を考えるかというと、「今ボーアを切るのはもったいない」という論調の記事を出すことである。
実際に2020年10月23日にボーアの阪神退団が報道された後、ネットニュースで配信された記事の一部を並べてみよう。