菅首相、「手遅れ感が満載」の緊急事態再宣言

衆院議員の任期満了は10月21日で、年明け以降それまでの間は「いつでも衆院解散は可能」(自民選対)なはずだ。にもかかわらず、解散権を持つ菅首相が「秋のどこかで」と発言すれば、解散時期は東京五輪・パラリンピック閉幕後の9月初旬以降に限定されることになる。

この発言に記者団は首を傾げ、政界にざわめきが広がった。しかも、会見後に官邸報道室が「『秋のどこかで』を『秋までのどこかで』に訂正させていただきます」とのペーパーを報道各社に配ったことで騒ぎは拡大した。

当の菅首相は4日夜に出演した民放番組で「『秋までのどこかで』と私、発言したと思っているんですけれども」と自ら言い間違いだったと釈明してみせた。

ただ、首相の伝家の宝刀の解散に絡む発言については、「歴代首相の誰もが全神経を集中させてきた。言い間違いなどありえない」(首相経験者)との声も多い。このため政界では「思わず本音を漏らしてしまい、慌てて言い間違いとごまかした」との見方も広がる。

野党は首相発言に集中砲火

この民放番組で菅首相は、「解散については、時期は決まっていますから」とも語ったが、この発言も「解散」ではなく、「衆院議員の任期満了」の間違いなのは明らかだ。さらに、新型コロナ対応の特措法改正に触れた中でも、「今回、特措法も緊急事態宣言も、悩み悩んだ中で、特に緊急事態宣言というのは発出させていただいた」と、検討中のはずの緊急事態宣言発出を過去形で語るというミスもあった。

番組内で菅首相は、緊急事態宣言について「悩みに悩んだ」と2020年末のGoTo全国一斉停止と同じセリフを口にした。これに対し立憲民主党の小沢一郎氏が自らのツイッターに「最悪の後手後手」と投稿し、蓮舫同党代表代行がすかさず「見事な後手」と書き込むなど、野党側は菅首相の一連の言動に集中砲火を浴びせた。

菅首相はこれまでの会見などで、「こして(こうして)」「そして(そうして)」など意味が取りにくい言い回しを多用してきた。与党内からも「語彙の少なさが表現力不足につながっている」との指摘も多く、野党側は「頭脳が混乱している証拠」(共産党)と酷評する。

2020年4~5月の緊急事態宣言は当初、首都圏の4都県と大阪、兵庫、福岡の7都府県が対象だったが、その後全国に広がり、すべて解除されたのは約1カ月半後の5月25日だった。しかも、当時は宣言発出時に「感染はすでにピークを過ぎていた」(感染症専門家)が、今回は「宣言後も感染拡大が続く可能性が大きい」(同)とされ、「1カ月での宣言解除は困難」(同)との見方が多い。

仕事始めの4日からは検査数が急増し、その結果が反映される6日以降の感染者数は、「東京は1500人、全国で5000人の大台を突破する」(同)事態も想定されている。

そうした状況下で菅首相が「最後の頼り」(側近)にしているのが、国内でのワクチン早期接種開始だ。年頭会見で菅首相はワクチン接種について、「2月下旬までには接種開始できるように、政府一体となって準備を進めている」とこの時ばかりは胸を張り、「私も率先して接種する」と記者団を見回した。

感染高止まりなら政権危機も

ただ、ワクチン接種開始には安全性の確認が大前提で、欧米では「南アフリカの変異種には効果がない」との研究結果も出始めている。しかも、先行して接種を始めたアメリカでも、接種の拡大は「当初の目論見よりはるかに遅れている」(ワクチン専門家)のが実態だ。

菅首相の思惑通り早期の接種開始にこぎつけ、それに合わせて感染者数が急減すれば、「東京五輪開催への道もひらけ、支持率回復も可能」(自民執行部)ではある。しかし、接種開始が遅れて感染者数が高止まりし、緊急事態宣言の解除が3月までずれ込めば、「支持率が20%台に落ち込んで、政権危機が深刻化する」(閣僚経験者)のは避けられない。

渦中の菅首相は5日早朝に官邸敷地内を散歩するなど、淡々と日課をこなし、同日の自民党役員会で、首都4都県を対象とする緊急事態宣言の発令を7日に決定する方針を表明した。

その表情は「もはや運を天に任せる心境」(周辺)ともみえるが、SNS上では「#菅辞めろ」などの批判がトレンド上位に並んでいる。「意志あれば道あり」という座右の銘の通り、菅首相に「迫りくる日本の危機を回避する宰相としての膂力(りょりょく)があるかどうか」(自民長老)。それが菅政権の命運を左右しそうだ。