米津玄師の2連覇から一転、年間音楽チャートの1位となったのはYOASOBIの「夜に駆ける」だった。
ビルボードジャパン(運営会社:阪神コンテンツリンク)が発表する年間ヒットチャート「Billboard Japan Hot 100」(集計期間2019年11月25日~2020年11月22日)は、新人アーティストが制す結果となった。YOASOBIは「小説を音楽にする」コンセプトを持つユニットで、結成1年目。しかもデビュー曲での年間トップ獲得となり、異例の快挙だった。
ビルボードは複数の指標を基に算出される複合チャート。CD販売に加え、ダウンロード数やストリーミング再生回数、ラジオのオンエア回数、ルックアップ数(パソコンによるCD音源の取り込み)、ツイッターのツイート数(アーティスト名と曲名)、YouTubeとGYAO!のミュージックビデオ視聴回数、カラオケ歌唱回数などが指標に含まれている。CDやダウンロード購入による「所有」だけでなく、どれだけ多くの人が楽曲を聴き、視聴し、話題にし、歌ったのかという「接触」「利用」も測定し、ヒット曲を浮かび上がらせるのが特徴だ。
「夜に駆ける」はCDで販売されていないが、ストリーミングと動画再生で1位を獲得し、ダウンロードとカラオケでも7位と上位だった。リリースは2019年12月で、100位内にチャートインしたのは3月。YouTubeで着実に視聴されていたが、人気に火が付いたきっかけはショートムービーアプリ「TikTok」だ。さまざまな動画で使用され、認知度は一気に高まった。
楽曲の魅力が前提にあることは言うまでもないが、SNSで積極的に情報を発信し、アーティストが一発撮りで届けるYouTubeのコンテンツ「THE HOME TAKE」でも驚異的な再生回数となるなど、ネットを活用したことも注目され続ける要因になった。
2020年の累計ポイントにおいて、上半期のトップを獲得したOfficial髭男dismの「Pretender」を逆転したのは10月のことだったという。YOASOBIは「ハルジオン」(34位)、「たぶん」(89位)、「群青」(91位)も100位圏内にランクイン。新人アーティストとしてこれ以上ない結果を残した。
ヒットの背景には、ユーザーの行動の変容がある。コロナで巣ごもりの時間が増えたこともあり、今年の春以降は歌詞に共感した曲やBGMに合う曲とともに、ライフスタイルを撮影してTikTokなどのSNSに投稿するユーザーが増えた。「動画に共感する気持ちが使われている曲への興味に直結し、TikTokでバズった曲がストリーミングで伸びる動きになった」(ビルボード事業部の高嶋直子氏)。
アメリカでは2年ほど前からTikTokを起点としたヒットがみられ、マーケティング面で強く意識するアーティストもいるようだ。日本ではそうした例は少なく、TikTokの人気曲とチャートにランクインする曲は異なっていたが、状況は一変した。「TikTokやYouTubeに動画を投稿し、それをインスタグラムやツイッターでもシェアしてバズらせる。アーティストではなくユーザーが広げる、新しいヒットのパターンが顕在化している」(ビルボード事業部長の礒崎誠二氏)。