実現に協力したテクニカルパートナーは9社。例えば、さまざまなポーズがとれるよう指一本一本が独立して動くガンダムの手の部分は、アミューズメント施設の恐竜型ロボットなどを手がけてきたココロが担当。ガンダムの動作における安全評価やそれを実現するための機器選定、電気配線は、同領域のプロフェッショナルがそろう三笠製作所が担当した。
「雨の日も風の日も、巨大なガンダムを1年以上無事に動かし続けるため、私たちが持てる最高の技術が集合した。振動にも強く、滑らかに動かすためにはどうすればいいかを試行錯誤した」。GGCでシステムディレクターを務めた、アスラテックの吉崎航・チーフロボットクリエイターは、開発の日々をそう振り返る。
人々のイメージの中にあるガンダムらしさを表現するために、外装のデザインと現在の技術で実現できる制御の仕組みを両立させるには多くの制約がある。巨大な建築物でもあり、重機でもある「動くガンダム」を安全に動かすためには、産業用ロボットの制御技術も組み合わせなければならなかった。
GGCのもう一人の立役者、ロボット・機械システム設計の専門家である石井啓範・テクニカルディレクターは、それまで勤めていた日立建機を辞め、2018年からプロジェクトに参加。メカ全般や安全面のリスク評価、組み立てでは現場指揮官としての役割を担い、「動くガンダム」の実現に自らの人生を賭けた。石井氏は「1つひとつの課題をクリアしながらリアルさを追求した。その点を実際に見て感じてほしい」と期待を込める。
こうして公開に至った動くガンダムプロジェクトやその展示施設は、バンダイナムコHDの知的財産(IP)戦略においても大きな意味を持つ。同社では近年、自社グループのキャラクターからの収益を増やすために人気IPへの投資を加速してきた。
1979年に放映されたテレビアニメ『機動戦士ガンダム』は劇場版アニメやプラモデルブームを通じて多くのファンを生み出した。特にガンダムのプラモデルである「ガンプラ」は、日本だけでなくアジア地域でも高い人気を誇る。同社にとってもガンダムは最重要のIPであり、さらなる世界展開の可能性を秘めている。
バンダイナムコHDがハイターゲット(大人層)向け玩具として展開するガンプラは、コロナ禍でもネットを通じた販売戦略を強化した。その結果、巣ごもり消費をうまく取り込んだこともあり、好調だった。
今後はアジアに続く育成市場として、北米への展開を加速する。北米の小売りチェーン・ターゲットなどでガンプラの販売が好調だったことから、直近ではウォルマートでの販売開始も決まった。海外での展開拡大に備え、同社はガンプラの国内工場を増床。12月1日から稼働を開始している。
今回完成した動くガンダムは、より幅広いIP認知やファン拡大のための広告塔としての役割も大きい。プロジェクト実現のための総工費は非公開としているが、この施設への入場料収入や、現地でのグッズ販売、飲食事業で、2022年3月末までの開催期間内での収益貢献も見込めるという。
こうしたガンダムのIP戦略は2021年以降、海外でも強化していく。2021年に中国・上海市に実物大の「フリーダムガンダム立像」が設置される予定だ。「フリーダムガンダム」は2002年にアニメ放送された『機動戦士ガンダムSEED』に登場し、海外での人気が高い。
さらに、2021年10月から始まるドバイ万博でガンダムが日本館PRアンバサダーを務めるほか、ハリウッドでの実写映画の製作企画(公開時期未定)も進んでいる。
今回のプロジェクトにとどまらず、新しい話題を提供し続けることで世界からも注目が集まる。こうした取り組みはIP価値を最大化させ、世界規模のエンタメビジネスを育成するモデルケースといえそうだ。