テレビ局の未来を悩ます「田中角栄の置き土産」

そうは言っても、放送局は公共の電波を使わせてもらい、競合もごく少数という恵まれた環境に置かれている規制業種。日々、厳しい生存競争を生き延びている一般の企業からしたら、嫌なら電波を返上すればいいと思われるだけだろう。では、民放ローカル局はどうなるのか。

近づくローカル局再編の波

7月2日の答申では、大胆な方針転換が示されている。

「従来のキー局との縦系列だけでなく、所在都道府県の場所にとらわれないローカル局同士の横系列での連携等、ローカル局が取り得る経営の選択肢を増やすため、より柔軟な規制の在り方を検討するべき」
「関係者からの具体的な要望を把握し、ローカル局の経営基盤の在り方について、放送事業者の経営の自由度を高める規制・制度改革を資本に関する取扱いを含め、幅広く検討する」


これまでは放送法で規定された認定放送持株会社制度で、キー局がローカル局を子会社にしたり、ローカル局同士が資本関係を結ぶなどは可能になっていた。しかし、もはやこれでは足りない。

県域という縛りを解き放ち、例えば東北圏や九州圏の複数の系列放送局が合併する。あるいは、狭く人口も少ない県域で4つの系列の放送局が1つの放送局にまとまり4系列の放送を1つの放送局として出したりする。

シェアの奪い合いをするのでなく、これまでよりはるかに自由な放送局のあり方が実現できるよう、資本関係の縛りを見直すことをこの答申は示唆している。

つまり、昭和30年代に当時、郵政相だった田中角栄氏がメディアを支配するために確立し、以後60年以上も続いてきた県域免許制度の見直しだ。

もともと県域免許には無理があった。地震や台風など全国一斉に伝えなくてはならないニュースを出す場合、県ごとに異なるローカル番組の放送中には困難がともなう。

また地形による負担の格差も深刻だ。平坦な地形にあるテレビ局圏内のテレビ塔は2本で済む一方で、入り組んだ山間部の局は200本も必要なところがあり、維持コストが経営を圧迫。番組制作もままならない。これに加え近年では、放送対象地域が狭い放送局は、人口減と高齢化、動画配信の普及でさらに経営基盤が脆弱になっている。

今後も現行のままなら、IoTの進展でますます貴重になる電波を、こういった放送局にまで広く割き続けなければならない。キー局を頂点に、県ごとに独立した企業であるローカル局を系列として組み合わせる県域免許制度は、もはや構造的限界にきている。

放送局の形態を根本から変える「地殻変動」

複数の放送局が1つになれば、送出などのインフラコストや販売管理費の大幅な削減が期待できる。4つの放送局が1つになれば、高額な年俸をとっている経営者の数も4分の1になる。

しかしこれは放送局が誕生以来続けてきた存在形態を根本からひっくり返す、まさに地殻変動ともいうべき大変化だ。当然ながら、当の本人たちの考えなしには事は進まない。そのために答申には、「関係者からの具体的な要望を把握し」という文言が入れられている。

つまり答申は、放送局のみなさんが望むのであれば、非常に大胆な放送制度の見直しもやりますよと、どでかいボールを放送局側に投げつけているのだ。

TBS以外のキー局はすべて新聞社が大株主になっている。またローカル局もそれぞれの地方で大きな力を持つ地方紙が大株主になっていることが多い。放送局の株主となっている新聞社は、放送局の将来についての責任がある。今、テレビ局、ラジオ局という放送だけにとどまらず、新聞社も加えたオールドメディアは、加速する大変革時代にどう対応するのかを厳しく問われている。

答申は、テレビ局から電波を召しあげることまで示唆している。