アップルは11月19日、App Storeで販売されるアプリの手数料を、2021年から一部値下げすることを明らかにした。アップルによると、その理由は「世界的な新型コロナウイルスのパンデミックが続くとみられる中で、アプリ開発者を支援するため」としてる。
アップルは新たに「App Store Small Business Program」を創設し、前年度の売上高が100万ドル(約1億500万円以下)だった開発者に対し、これまでの半額の15%の手数料率を適用することとした。2020年の売上高が100万ドル以下であれば、「小規模開発者」として手数料の優遇措置を受けることができる。
App Storeは世界175の国と地域、40言語で提供されており180万本のアプリが並んでいる。開発者は2800万人に上り、iPhoneやiPad、Macなど15億台のアップル製品がエコシステムを構成している。
そのすべての地域に影響を及ぼしているのが新型コロナウイルスだ。欧州、アメリカに続いて日本でも、第3波の訪れが懸念され、引き続き「コロナ禍」「パンデミック」の状況が継続することは確実だ。経済的に打撃を受けたり難しい状況に陥った開発者に救いの手をさしのべようというのが、アップルが今回のスモールビジネスの優遇措置を導入する理由だ。
例えばジムやスイミングなど、フィットネス関連のアプリは、施設の閉鎖によって利用者数が世界的に激減し、売上高に深刻な影響を与えている。手数料が15%に下がった部分を原資に、新しいアプリの機能やターゲットの開拓のためのマーケティングにコストを割くことができるようになる。
あるいは、プログラミング教育のアプリの場合、オンライン教育の成長でニーズが高まる中で、開発を加速することができ、またユーザーに対して無料コンテンツをより多く開放することにもつながる。ネガティブな面をフォローする、ポジティブな面をより伸ばすことによるアプリ開発者の支援が、今回のプログラムの明確な目的となる。
グーグルとアップルが世界のアプリストアを独占しており、とくにアップルはスマートフォンのシェアは15%にすぎないが、アプリビジネス全体の売上高3分の2を占める。アプリストアのビジネスは同社のサービス部門に属しており、2016年のサービス部門の売上高を2020年までの4年で倍増させる目標も、大幅な上振れで達成したばかりだ。
小規模な開発者の活性化や成長は、プラットフォームを運営し、その手数料収入を得ているアップルにとって、さらなるサービス部門の売上高をもたらすだけでなく、ユーザーと開発者を含むApp Store経済圏のつながりをより強固にすることができる。
一方で、音楽定額ストリーミングのスポティファイや、人気ゲーム「フォートナイト」を開発するエピックゲームズなどの一部の開発者から、一律30%に設定されているアプリストアの手数料が高い、アップルのサービスが優先されている、といった批判を浴び、エピックとは係争中だ。
こうした開発者からの批判に対して、アップルとして一定の配慮を示したと見ることができる。ただアップルのアプリ経済圏独占を問題視している企業にとって、今回の対策は不十分とばかりに、各社からコメントが挙がった。
エピックゲームズのCEO、ティム・スウィーニー氏は、Varietyにコメントを寄せ、「場当たり的な特別セールで、コミュニティを有利に改変している」としたうえで、「アプリ開発者を分断し、アプリストアと決済の独占を維持するためのアップルによる計算された動きだ」と批判した。スポティファイも今回の「アップル税カット」について「独善的で気まぐれ」と批判し、手数料割引とは無縁な自社サービスが、Apple Musicとフェアな競争を可能にするわけではないとしている。
また大企業が、アプリを用いたビジネスを大規模に展開する、そんな可能性も浮上する。
今回の小規模事業者支援策は、あくまでApp Storeでの売り上げに応じて適応されるかどうかが決まる。そのため、アプリ販売やアプリ内課金をこれまで行ってこなかった場合、たとえAmazonやGoogleのような大規模起業だとしても、100万ドル以下の開発者に分類されてしまうことになる。
こうした大企業が戦略的に、2021年に有料アプリの発売やアプリ内課金を行えば、小規模な開発者と同様15%の割引手数料が適用されるため、安いコストでビジネスの基礎となるユーザーベースを獲得できる。特にサブスクリプションの場合、1年以上契約しているユーザーも15%の手数料に割り引かれるため、たとえ2021年中に100万ドルを超えても、来年以降も低い手数料率を維持できる可能性がある。小規模な開発者が競合する場合、深刻な打撃を与える可能性を排除すべきだ。
アップルは詳細な条件などを12月にも発表するとしている。