仕事が遅い人が陥りがちな「情報過多」の大弊害

車とサッカー、いずれの実験でも、「短時間で決めたグループの正解率が高い」という結果になりました。理由として、短時間で決めなくてはいけないグループは、時間がない分、情報に正しく優先順位をつけて、合理的に選択できたのではないかと考えられています。

例えば中古車ならば、「燃費のよさ」、サッカーならば「FIFA世界ランキング」といったように、時間がないからこそ重要だと思われる指標を絞り、素早く優先順位をつけることで合理的な選択ができたのです。

一方、よく考えるグループに起きたのは情報過多による混乱です。「ドリンクホルダーの数」や「選手にまつわるうわさ話」など、時間があるからこそ細かい情報に意識がいってしまい、小さな欠点やマイナス要因が大きな問題のように見えてしまいました。

そのために、ものごとをシンプルに、大局的に考えられなくなってしまったのです。あれもこれもと検討を重ねているうちに、最適でない答えにたどりついてしまうことがある、というわけです。

何事も万全を期すことは重要なのですが、「時間さえあればいい選択はできる」「情報は多いほうがいい」とは限らないのです。

仕事のできる人というのは、「頭の回転が速い」「センスがいい」「直感で動いている」などと言われることもありますが、その本質は無意識を上手に使っているのではないかと思います。優先順位をつけておき、細かいところには目を向けない(=忘れていく)。このような習慣が思考のムダを省き、より素早い行動につながっているのです。

迷ったら「コイン」に聞け

それでもどうしても迷ってしまうというなら、もういっそのことコインで決めるというのはいかがでしょうか? 乱暴すぎると思われますか? でも実はこれにもちゃんと科学的根拠があるのです。

シカゴ大学の経済学者、スティーヴン・レヴィットは「人生の重要な選択の場面において、自分で決断できない人はどう決断すべきか」調査をしました。

そして、この調査のために作ったのがあるウェブサイト。「コイン投げサイト」と呼ばれるもので、閲覧者たちが「今決めかねていること」を書き込み、画面上のコインを投げるというものです。

このコインの表が出たら「実行」、裏が出たら「実行しない」というメッセージが出るというとてもシンプルなつくりです。レヴィットはこのサイトで1年かけて4000人の悩みを収集し、「コイン投げの決断によって人生がどう変化したか」ユーザーたちの追跡調査をしたのでした。

書き込まれた悩みとしていちばん多かったのが「今の仕事をやめるべきかどうか」、次に「離婚すべきかどうか」で、驚くことにユーザーの63%がコイン投げの結果に従って行動していたのです。

「決断すること」が人を幸せにする

さらに驚きの結果は、コイン投げの結果が表だろうが裏だろうが、悩みの解決に向かって何かしら行動を起こした人は、半年後の幸福度が高いことがわかりました。

「会社をやめる」という決断をした人も、「やっぱりこのままがんばろう」と決断した人も、いずれのパターンでも幸福度は高くなったという結果が得られた、というわけです。

『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

つまり、決断においては「どう決めるか」ではなく、「そもそも決められるかどうか」のほうが重要だということです。やると決める、やらないと決める、そうして腹をくくることが結局のところ人生の満足度を大きく左右します。

キャリア支援会社のアンケート調査によると「近い将来転職したい」と考えている人は93%という結果もあります。もちろん、それがポジティブなキャリア設計のうちなのであれば何の問題もないのですが、「やめたいなぁ……でもなぁ……」と「宙ぶらりん」の状態はパフォーマンスを落としてしまう原因になります。

なかなか決断できないことで悩んでいるときは、例えば「これから3カ月は今の仕事をやる!」とまず決めて、やめるかどうかはそのあと考えようなど、期限つきで選択をしてみるのもいいかもしれません。