大ヒットで見えた鬼滅の刃「定番化」の可能性

しかし、その後の興行収入は年々シュリンクしていく。2018年公開の『映画 妖怪ウォッチ FOREVER FRIENDS』は興行収入11.5億円、キャラクターや世界観を一新した第6作『映画 妖怪学園Y 猫はHEROになれるか』(2019年公開)は興収7.3億円と苦戦している。

一方、漫画原作の劇場版では、『名探偵コナン』はここ7年連続で最高興収を更新し、最新作『名探偵コナン 紺青の拳』(2019年公開)は興行収入93.7億円と100億円突破も視野に入ってきている。

また、『鬼滅の刃』と同じ『週刊少年ジャンプ』からの劇場版である『ONE PIECE』は、毎年の公開ではないが、直近では2016年の『ONE PIECE FILM GOLD』が興収51.8億円、2019年の『ONE PIECE STAMPEDE』は興収55.5億円と、2000年の第1作からファンの高い支持を維持し、ヒット規模を拡大している。

映画関係者の間では、この『鬼滅の刃』が『名探偵コナン』のような「定番化コンテンツ」になりうるのかが注目されていた。

ストーリー性、映像演出、作画のクオリティーに高い評価の声があがっている ©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

結果は、初週の時点で、期待が確信へと変わる手応えを得られたと言える。映画としてのストーリー性、映像演出、作画のクオリティーなどあらゆる要素が観客を魅了し、スクリーンで観るアニメ作品としてこれ以上ないほどの高い評価を得ているからだ。

何よりも大事なのは、映画化がファンに受け入れられるかどうか。劇場版は、これまでファンが楽しんできたテレビアニメとは、作品性も楽しみ方も異なる。しかし、本作を鑑賞した多くのファンのSNSでは「スクリーンで観るべき作品だった」「この物語はテレビではなく映画館で観られてよかった」といった声があがっている。これは、本作が映画として受け入れられた証であり、作品の物語性が映画作品としての親和性が高いことも物語っている。ファンの間ではこの先も劇場での公開が望まれているようだ。

映画、テレビ…今後の選択肢が広がる

もうひとつ、この先の劇場版が続けられる原作かという点においても余地がある。これまでに原作を追ってアニメ化が進められてきているが、現状はテレビアニメ第1期と劇場版の本作において、原作漫画8巻の途中まで進んでいる。原作はすでに『週刊少年ジャンプ』での連載は終了しているが、単行本はまだ発刊中。現時点(2020年10月)で22巻まであり、まだまだ映像化できるストーリーがある。

 オーソドックスなパターンとしては、この先、テレビアニメ第2期および第3期の2シーズン、劇場版は前後編の2部構成も考えられ、少なくとも3~4作の制作が予想される。

しかし今回の結果を受けて、今後のシリーズ構想の幅が広がった。テレビ放映ではなく劇場版をメインに据えてシリーズを展開していくことは十分に考えられる。そして圧倒的なコンテンツ強度を武器に、前例にとらわれない新たな仕掛けに打って出る可能性もある。

定番化する際のコンテンツとしての問題は、原作の物語をすべて映像化したその後だが、本作を観たファンならば、誰もが「煉獄杏寿郎 外伝」(れんごくきょうじゅろうがいでん、『週刊少年ジャンプ』掲載)のアニメ化を熱望していることだろう。

また、『鬼滅の刃』の人気の理由のひとつに、背景を含めたキャラクター造形と描写の妙がある。“柱”をはじめとした鬼殺隊のメンバーだけでなく、“十二鬼月”のほか宿敵である鬼たちにもそれぞれが人間だったころのドラマがある。それは、本編により深みをもたらす、作品の幅を広げる物語となり、ファンを魅了することは間違いない。