すでに成功例は出てきている。女性向けを中心とした電子コミック配信サービス「めちゃコミック」を運営するアムタスは、パートナー出版社や編集プロダクションに制作を委託する形でオリジナル作品の連載に力を入れてきた。その中から誕生したヒット作品が『青島くんはいじわる』だ。
同作品は「一話単位の販売だが、単行本に換算すると累計100万部以上」(アムタス親会社のインフォコム広報)を達成している。作品販売による売上増はもちろん、Web広告などで独占先行配信を積極的に訴求することにより多くのユーザー獲得につながっている。
「一般的な作品と比べて、独占先行配信のオリジナル作品は、広告によるユーザー獲得の効率が非常に高い」と、アムタスの山下正樹社長は言う。
ビーグリーも社内に専任編集者を数名抱え、オリジナル作品を制作している。しかし大きなヒット作に恵まれず、ライバルに遅れを取っていたことは否めない。今回、ぶんか社を買収することにより、約60名の編集者がグループに加わることは作品の制作面で大きな後押しとなる。
これまでビーグリーは『コミック配信会社からコンテンツプロデュースカンパニーへ』という方針を掲げてきた。同社の吉田仁平社長は「(ぶんか社買収で)コンテンツ制作機能を補完した。ヒット作を生み出すための作品の裾野が広がったほか、まんが王国のユーザーの嗜好やトレンドを作品作りに反映していくこともできる」と意気込む。
来21年12月期からは、ぶんか社がヒット作品を生むことによる収入増と、オリジナル作品の独占先行配信などによる「まんが王国」へのユーザー流入増の両面で、グループ全体としてのシナジー効果を目指していく。
今回の買収劇の裏側には、紙のコミック、漫画雑誌の市場が縮小する中での中小出版社の苦境もある。電子コミック市場の拡大により、大手出版社は過去作品も含めた電子コミックの販売増で収益性が向上しており、自社でも配信やアプリサービスを展開することで業績堅調な会社が多い。一方で小規模な出版社ほど資金面や人材、技術力がネックとなり、デジタル化への対応が遅れている。
また、紙媒体と電子コミックでは、販売時のお金の動きも大きく異なる。紙媒体では日販、トーハンなど取次が金融機能を有しており、出版社ごとに条件は異なるが、取次に納入した段階で出版物の代金を一部受け取ることができる。返本分の返金リスクがあるとはいえ、この仕組みの中では新刊の出荷を続けることで現金を得ることができる。
一方で電子コミックの場合、利益率は紙よりも高いものの、売れた冊数(話数)分だけの金額が、販売時から数カ月先に入ってくるという形態が一般的だ。デジタル化の流れは、出版社のキャッシュフローが紙媒体の流通の場合と比べて悪化する要因となっている。
電子書籍取次の最大手メディアドゥホールディングスは、昨年秋にポプラ社傘下のジャイブ社を、宙出版社から少女コミックレーベルを刊行するネクスト編集部を買収している。マーケティングやシステム開発、経理など管理面の機能を一元化し、傘下の出版レーベルは編集機能に特化して紙と電子の双方で出版を手がけるという、新しい出版形態の「インプリント事業」を開始している。
業績好調の中で差別化のためのコンテンツ拡充に打って出たい電子コミック配信サービスと、紙の市場縮小という難局からの脱却を計る中小出版社。双方のメリットを考えると、買収や資本提携の流れは今後も続く可能性がありそうだ。