ランニングなら「5キロメートル走れるようになる」、ヨガなら「頭で立てるようになる」など、マイルストーンになるような目標もあったほうがいい。「1日20分、週3回運動をする」のはゴールではなく、ゴールへたどり着くための戦略にすぎません。
──運動でどんな「Joy(喜び)」を感じるかが継続のカギとも。
喜びの意味は1つではないし、幸福感や恍惚(こうこつ)感、興奮を覚える必要もない。力強さや我慢強さ、集中力の向上、精神的な落ち着きなど喜びの感じ方もいろいろあります。
──ダンスなど人と一緒の動きをすれば連帯感が生まれるということですが、これは企業などで活用できそうですね。
実際、世界各国でさまざまな例があります。私も大企業の研修に招かれてフラッシュモブなどのダンスを教えることがあるけれど、重要なのは「やらされる」のではなく、自ら選択して参加すること。そういう参加者が集まれば、連帯感はより強まります。
どういうエクササイズを選ぶかによって、チーム内に生まれる感情も異なります。「アドベンチャーレース」のようにチームで障害などを乗り越える研修は、困難な課題にともに立ち向かうという参加者間の感情を醸成し、連帯感を強める効果がある。
ちなみに、医療従事者に最も効果があるのはダンス。人の不幸や痛みに向き合うことも多いので、喜びという感情が必要だからです。医師や看護師向けにダンスの研修を行うと、仕事やお互いへのコミットメントが高まるのがわかる。
──音楽が運動にもたらす効果も語られています。音楽好きの人は、実は運動も好き、ということですか。
そう質問されるのは初めてだけれど……例えば、エモーショナル・ロックなど悲しみたいがために音楽を聞く人もいるので、すべての人がそうとは言えませんが、音楽はドラムにしても、歌にしても、ほかの楽器にしても体を動かす要素があることを考えると、その仮定は間違っていないと言えます。
自分の好きな音楽を聞いたときについ体が動いてしまう、好きなアーティストが音楽に合わせて踊っているのを見て自分を重ね合わせる、踊るまでしなくてもウォーキングするときに音楽を聞いているという人は少なくないのでは。最近私が読んだ研究によると、好きな音楽に合わせて体を動かすと、その曲をより好きになる効果があるようです。
──うつ病や薬物依存など強いストレスを経験した人は、100キロメートル走、24時間走といったウルトラマラソンのような極度にきつい運動を好む傾向があるのですね。
正直、私自身エクストリームスポーツの激しさに気押され、本書のおいてこの章を書くのがいちばん大変でした。
1つわかったのは、耐久レースや極度に激しいスポーツは、ストレスやつらい経験と自分との関係性を変える役割を果たす可能性があるということ。この件を研究して、今ではスポーツにおける激しい動きは、体を動かすことによるすべてのメリットを増進させると信じるようになりました。極度のストレスや困難を経験した人の脳が、それに見合う水準の経験を感じるには激しさが必要なのです。
取材では、不可能だと思われることを成し遂げて人生の困難に対する見方が変わった、という話も多くの人から聞きました。ウルトラマラソンでは、慣れ親しんだ環境から自らを隔絶し、ひたすら不安と向き合わないといけない。参加者の中には、ウルトラマラソンの戦略を人生でも活用しているという人が多くいました。