私たちはいま、前例のない「答えのない時代」を生きています。国際情勢から為替の変動、そして新型コロナウイルスまで、「未知なこと」や「予測不能なこと」が日常的に勃発し、一つひとつの出来事が複雑に影響し合って、日々の生活や働き方などが思わぬ方向に進む事態も発生しています。その変化の速度は、ますます加速しているといえます。
このような状況下では、すべての問題を解決してくれる唯一無二の答えなど存在しません。そんな「答えのない時代」に、自分にとって必要な答えを導き出すためには、どんな能力が必要なのでしょうか?
その1つが、考え方の考え方、つまりは「考え方の軸」を持つことです。万能な答えのない状況では、1つの答えを追求するより、「いかに考えるか」ということのほうが重要だからです。
私はイギリスのオックスフォード大学大学院で、答えのない状況での考え方の軸を本格的に学びました。オックスフォードに入学して驚いたのは、教授と学生が1対1、もしくは1対2で対話をしながら学ぶ「チュートリアル」という指導体制がとられていたことです。
多くの大学では、講義における議論への参加ぶりや提出した課題の内容によって評価されるのに対し、オックスフォードではこのチュートリアルこそが、学びの中枢になります。
まずは、そのステップをご紹介しましょう。
毎週新しいテーマに関する文献を大量に読むことによって、テーマを理解して言語化し、論点を整理します。何十年、何百年もかけて積み上げられた先行研究の内容を「自分の言葉」で表現する作業です。それをもとに、いままでに何が明らかになっていて、どんな課題があるのかという点について、自分なりの結論を出して小論文にまとめます。オックスフォードではこの作業を1年間で8週間×3学期=計24週間繰り返します。
完成した小論文を教授に提出すると、チュートリアルが始まります。教授によく聞かれたのは、「それはどういう意味?」という質問でした。この単純な質問を繰り返されると、不明確だった部分が明確になっていきます。自分の中できちんと理解できている場合はそれなりに回答できるのですが、理解できていない場合はうまく言葉にできずに説得力のある答えができないからです。この質問のおかげで、自分の理解の曖昧な点を明らかにすることができます。
次に聞かれたのは「どうしてそういう結論になったのか?」ということでした。この質問によって、全体の論理展開に矛盾がないか、自分の考えのもとになっている前提は何かを確認していきます。
そのうえでさらに、洞察を深めていきます。自分の理解や情報が足りない点をクリアにしたうえで、さらにどう思うか聞かれたり、「こういう別の見方もあるけど……」と、反対意見に対する考えを求められます。自分とは違う意見と比較することで、自分の視野や選択肢を広げ、そのうえで改めて「自分にとっての結論は何か?」をよりはっきりさせることが狙いです。