では、なぜこれまで問題にならなかったのか?それは、独占禁止法違反ではなかったからである。
3社に独占力はない。確かに3社の寡占状態ではあるが、ついこの前までは、NTTドコモ、au の2強をソフトバンクが追い上げる、という状態だった。ソフトバンクは「つながりにくい」などといったサービスの品質の批判を受けながらも、2社よりも安い価格で攻撃を仕掛け、3強の一角まで浮上してきたのである。そして、「3強」のポジションを獲得するや否や、利益率優先に切り替え、価格戦争は事実上やめてしまったに等しいのである。したがって、そもそも、断然1位のドコモが独占力を発揮して、価格を支配している、という状況ではなかったのである。
では、今は、3社が共謀をして、あるいは実は実質的なカルテル(協定などによって価格や数量などを相互に取り決める行為)などを行っているのだろうか?
もちろん、その可能性はゼロではない。しかし、それならば首相が政治的な公約をする問題ではなく、法律にのっとり、正々堂々と、公正取引委員会が前出のように「排除措置命令」を出し、その行為をやめさせ、かつ課徴金を課せばよいことである。繰り返しになるが、それをする義務が公取にはある。それを「公取に行わせる使命」が政権にはある。だから、それは、政権公約にはなりようがなく、法律を公正にしっかりと運用するということに過ぎない。
実際、日本ではいわゆる格安スマホがあふれている。なかには質の悪いものもあるが、質のよいものもある。実際、私も10年近く格安スマホを使っているがサービスには満足しており、携帯電話代が高いとは一度も思ったことがない。むしろ、過去、アメリカなどの携帯電話代のほうが非常に高く、回線を保有することができなかったという記憶しかない。
つまり、1の「価格は高すぎる」という問題は存在しないのである。日本の携帯電話代は国際的には高くない。むしろどちらかというと安い方なのだ。それなのに、世間だけでなく首相あるいは総務省などが「日本の携帯電話料金が世界的にもっとも高い」と主張し、それを示すグラフなどをメディアにあふれさせているのは、なぜなのだろうか?
それは、このデータやグラフが、意図的にミスリードするように作られているからである。あるいはミスリードするために、ひとつのカテゴリーの数字をことさら取り上げているからである。
端的には、スマートフォンのデータ容量「月20ギガバイト」の価格比較の数字である。しかも、それはメインブランド、すなわち最もユーザシェアの高い事業者の料金プランでの比較だ。それによると、ロンドン、パリ、デュッセルドルフの約2倍、ソウルの約1.3倍、値段が高くて有名なニューヨークよりも(わずかに)高いのが東京、ということになっている。
これは、どういう意味か。
気づかれた方も多いと思うが、要は「ドコモのこの料金プランが高い」ということに過ぎないのである。
東京中心なら、格安スマホを選んでも十分に使えるし、私の使っているIIJのサービスならドコモ(またはau)の設備を使っているから、品質はドコモと変わらないといってもいいが価格は半分以下だ。音声通話をほとんど使わなければ、3分の1以下である。
つまり、日本のスマホ通信料金が高いのは、日本の消費者が「ドコモが大好きだから」なのである。
高いのがいやなら、乗り換えればよい。しかし、それをしない。なぜか。いろいろな理由があると思うが、最大の理由は、ドコモのサービスが「良すぎる」からである。どこにでもドコモショップがあり、何か困ったら何でも助けてくれる。SIMカードを入れたり、新しいスマホの操作を教えてくれたり、至れり尽くせりだ。