新ジャンル増税、ビール各社が描く「皮算用」

各社が販売する高価格帯チューハイ(記者撮影)

ビール1缶(350ml)の税込み価格が220円の場合、価格の約3分の1は酒税が占める。3缶飲んだら1缶は税金――。

10月1日から酒税の税率が変わった。日本酒は減税となるが、ワインでは増税となるなど、今回の酒税改正は入り乱れている。その中でも税額が大きく変わったのがビール類だ。

350ml当たりの酒税は、ビールが77円から70円に減税された。一方、ビール風味でありながら1缶157円(税込み)ほどの新ジャンル(第3のビール)は28円から37.8円の増税となった。発泡酒は46.99円のまま据え置きだ。

続くビール減税と新ジャンルの増税

これまでビール業界はドイツやアメリカなどの諸外国と比較してビール税率が高額であると訴えてきた。その業界の悲願であったビール減税が一歩進んだ格好だ。

今後も2023年10月と2026年10月に、ビール減税と新ジャンル増税が待ち受ける。2026年10月には発泡酒も増税となり、最終的にビール類の酒税は54.25円に一本化される。

麦芽比率やホップの使用の有無でビール類は現在、ビールと発泡酒、新ジャンルの3つに分類されているが、2023年10月の段階でビールと発泡酒の2分類になる。現在の新ジャンルは発泡酒として扱われる。

今回の酒税法改正は2018年に決まった。財務省主税局の担当者は、「ビール類は同じような飲まれ方をしているにもかかわらず税率が異なることで、その税率差を狙った商品開発が行われてきた。この現状を改め、課税の公平性を回復させる」ことが改正の目的だと話す。そして、「増収を目的とした改正ではない」というのが主税局担当者の説明だ。

ビール各社の今後を左右するのは、新ジャンル増税の影響がどのような形で出るか、ということだろう。

ビール各社は「4社4様」

ビール類の販売数量でビール構成比の高いアサヒビールは、新ジャンルからビールへと一部消費者がシフトすることを見込む。酒税改正後の10~12月で『スーパードライ』ブランドの家庭用商品が2019年比で1割増になると予測している。

新ジャンルの販売が鈍るとしても、高単価であるビールの売れ行きが復活するチャンスだと捉え、10月30日からビールの鮮度を訴求した商品を店頭で発売するなどし、需要増を図る。

サッポロビールも10月より、若者に人気のアパレルブランド「ビームス」で『黒ラベル』商品とコラボしたグッズを販売し、同商品の認知度を高める狙いだ。

一方、サントリーホールディングスは新ジャンルから缶チューハイにも消費者が流れ込むとみる。チューハイで業界最大手である同社は、酒税法改正をにらんで『-196℃ストロングゼロ』などの定番商品で、味わいを増したリニューアル商品を8月下旬から投入してきた。

キリンビールは缶チューハイや缶カクテル、ハイボール缶などのRTD(レディー・トゥー・ドリンク)市場規模が2026年までに1.4倍になると試算。チューハイ人気の一層の高まりを見越し、75億円を投じて『氷結』や『キリン・ザ・ストロング』などの製造設備を仙台工場に新設することにした。

チューハイの酒税は、従来の新ジャンルと同じ350ml当たり28円が2026年10月まで維持される。新ジャンルが値上げを迫られる中、「1缶100円以下でも買える数少ない酒類」(小売り関係者)として、存在感が一層増すと考えるのは自然なことだ。

ただ、缶チューハイの市場の伸びに期待する会社も浮かない顔をみせる。ある酒類メーカーがこぼすように、「缶チューハイは各社の低価格競争が激しく利益が少ない」からだ。そこで各社は目下、缶チューハイの利益率向上を目指している。