ウーバーvs出前館、「デリバリー」業界の死闘

街で見かける、おなじみの「Uber Eats」や「出前館」。フードデリバリー業界の競争が激化している(写真左:西村尚己/アフロ、右:松尾/アフロスポーツ)

「8月18日(火)のワールドビジネスサテライトの報道におきまして、当社に関して、『当社がUber Eatsの買収検討』といった内容の報道がなされましたが、事実無根の内容であり、当社が公表したものではありません」

宅配・デリバリー国内大手の出前館は8月19日、同業大手Uber Eats(ウーバーイーツ)の買収報道を完全否定した。メディアの報道内容を「当社が公表したものではありません」と否定した後に、ほぼ同じ内容で正式発表するケースは少なくない。ただ、今回のように「事実無根」と一刀両断するのはまれで、Twitterをはじめネット上で大きな話題となった。

新型コロナウイルス感染拡大に伴う巣ごもり需要急増に湧くデリバリー業界で、トップを争う出前館とUber Eats。報道内容の真偽は定かではないが、実は噂は以前からあった。

再編も?Uberと出前館はソフトバンクGつながり

出前館の筆頭株主は、メッセンジャーアプリなどを手がけるIT大手のLINEである。今年3月26日、LINEは出前館への追加出資を発表、出資比率を35.87%まで高めた。そのLINEは来年3月をメドに、通信大手ソフトバンクグループ傘下のZホールディングスと経営統合する予定だ。

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一方、Uber EatsはUber Japanが展開しているものの、アメリカ本社のウーバー・テクノロジーズにはソフトバンクグループが出資。出前館とUber Eatsは言わば、ソフトバンクグループ内の”親戚”である。買収報道の翌日に当たる8月19日、出前館の株価は前日比8.2%上昇の2240円。投資家の思惑買いが集まったとみられる。

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買収がささやかれる背景にあるのは、”親戚”関係だけではない。

出前館はコロナショック以前から時短ニーズを取り込み、2018年8月期まで増収増益を続けてきた。だが、競争が激化する中で、前2019年8月期はシステム増強や広告宣伝などの先行投資がかさんだ。

事実、前期の売上高は前々期比22.7%増の66億円だったものの、営業損益は3900万円の赤字に転落。今2020年8月期も積極投資を継続しており、第3四半期(2019年9月1日~2020年5月31日)累計で16億円の営業赤字だ。同社は、本稿執筆時点で通期の業績予想を発表していないが、黒字化は難しいだろう。

Uber Eatsも利益は「めちゃめちゃ薄い」

同様にライバルのUber Eatsも、利益面では苦戦している。Uber Eats日本代表の武藤友木子氏は東洋経済プラス(8月4日公開)のインタビューで、「(利益は)めちゃめちゃ薄い。高くない価格帯のカジュアルなランチであれば、もらったマージン(手数料)から配達している方々に満足に働いてもらえるくらいの報酬を出すと、利益は限られる」と語っていた。

武藤氏は「だからこそ規模が必要だ」とも語る。5月時点の出前館とUber Eatsの掲載店舗数は、それぞれ2.4万店と2.5万店。店舗を増やし、利便性を高めて多くのユーザーを囲い込む。規模のメリットを働かせない限り、デリバリービジネスで安定的に利益を出すことは難しい。

それでもデリバリー業界では、今後の市場拡大を期待し、新規参入が相次いでいる。

ECなどIT大手の楽天は「楽天デリバリー」で1万店以上を展開している。スマホゲームのレアゾン・ホールディングスのグループ会社menuは2018年設立だが、社名と同名のサービスは、今年6月時点で掲載店舗数が2.4万店。すでに出前館と同規模だ。

スマホゲーム大手のDeNA系などから出資を受けるベンチャー企業のシンが運営するのがChompy。規模はまだ小さいものの、チェーンではない有力飲食店を多く掲載し、注目を集めている。LINE自身も「LINEデリマ」を展開しているが、「出前館」ブランドに一本化する予定だという。

群雄割拠のデリバリー業界。各社はキャンペーンやサブスクサービスを矢継ぎ早に投入し、しのぎを削る。当面は採算よりも先行投資優先で、規模のメリットを目指した熾烈な拡大競争がしばらく続きそうだ。

『会社四季報 業界地図2021年版』の宅配業界地図(抜粋)。これ以外にも、話題の業界から、ニッチな業界、重厚長大の業界まで、全173業界が網羅されている