理由は明白。地図や案内図には、大事なことだけが書かれているからです。だから、街の構造がすんなり頭に入ってきて、そのお店に行けるのです。
情報は多ければ多いほどよいというものではありません。大切なことは、本当に大事なものだけがハッキリ見えている、ということなのです。その点「図」は、大事なものをハッキリさせてくれます。
②ビッグ・ピクチャーを得られる
1枚の紙の上で考えることのもう1つのメリットは「鳥の目」になれること。1枚の紙に大事なことを描こうとすると、おのずと視座が上がり、その紙1枚がヌケモレのない全体像、つまりビッグ・ピクチャーになるからです。
ちゃんと考えるためには、今考えていることに対して影響を及ぼすすべての要素を、視野を広げて大きく捉えることが重要です。もし視野が狭いと、その視野の外にある何かが影響し、「しまった! 想定外だった……」ということにもなりかねません。
「考える範囲」=「影響が及ぶ範囲」であるべきなのです。ビッグ・ピクチャーを持てると、答えの精度は上がり、「しまった!」の数を減らせます。
③思考の「見える化」ができる
図を描くと、思考の「見える化」もできます。思考の「見える化」は、思考のモレや矛盾、弱点を明らかにしてくれます。
大体の場合、頭で「わかった!」と思っても、その論理は「ゆるい」ことが多く、図にするとそのゆるさが白日のもとにさらされます。そして、えっ、これしか考えられてなかったのか……と自己嫌悪。思った以上に論理はタイトでないことが多いものです 。
「見える化」のメリットはほかにもあります。それは記録として残せることです。頭の中の記憶が消えても、図にしておくと、そこまで考えたことは消えません。そうすると、いつでもその図を取り出し、続きから考え、思考のビルディングブロックを積み上げていくことができます。
その図が手元になくても、一旦、大事なことを図に「見える化」した分、イメージがハッキリするので、いつでもどこでも考え続けることができます。
AI時代がやってくると、この「図で考える力」はますます重要になるはずです。
AIは、あるものの組み合わせを試すこと、つまり数え上げることは得意です。しかし、ゼロから考えることは苦手です。
おそらくAIに、「紙1枚の上に、何を考えるべきかも含めて考えて、何か描いてみて」と言っても何も描けないでしょう。しかし、人間にはそれができます。
図で考えることは、AIにはない人間特有の頭の使い方に関係しています。それは「ヒューリスティック」です。ヒューリスティックとは、過去の経験や学んだことなどから、暗黙裡にポーンと正解に近い答えに飛ぶ能力です。つまりここでは、図を描くことによってハッと気づく、に例えられます。
図を描くことは「現実を抽象化」することでもあります(すべてを描けませんから)。
図を使ってものごとを抽象化し、その抽象化されたイメージから構造や関係性を読み解く。そこから解決のヒントにハッと気づく。このアプローチは人間にしかできません。だから「図で考える力」は、これからの時代にますます求められる「人間ならではの力」のような気がするのです。
AIには「知識」ではかないません。なので、AIには「知恵」で勝つしかありません。それゆえAI時代になっても、逆にAI時代になるからこそ、「図で考える力」を鍛えることは得策だと言えるでしょう。