さらに2020年3月には、副社長職を廃止、執行役員へ一本化する組織改正を発表し、トップも含めて組織をフラットにすることで改革のスピードを速めるとともに、有望な次世代リーダーを見極め、素早く適任人材を登用するための体制を強化しているのです。
旧来型の考え方を大幅に脱し、破壊的なスピード感で物事を前に進める体制を構築することも求められる制度基盤整備の1つといえます。
大日本印刷株式会社(以下DNP)は、ペーパーレスが進む中、いわゆる紙への印刷事業以外の事業を拡大させていくことが課題となっています。同社のケースは、まさにデジタル化の波にさらされ、現在の延長線上にないビジネスの拡大を図っている企業の好例といえます。
DNPでは、2015年より事業ビジョンに「P&I イノベーション」を掲げ、印刷(Printing)と情報(Information)という強みを活かし、従来の受け身の事業スタイルから新たな価値を創造することへの転換を進めています。
とくに「事業をまず作れる人、そして大型で複雑なプロジェクトを回せるリーダーが不足している」(同社役員)といった事情から、社外から見ても魅力的な報酬水準を提示することができる仕組みづくりとして、2019年より有期雇用形態にて高処遇で採用する「プロフェッショナルスタッフ」および「アソシエイトスタッフ」を新設しています。
プロフェッショナルスタッフについて同社は「特定の専門分野に関し、極めて高度の知識・技術を有し、本人の専門能力が事業運営上必要不可欠であると認められる者」と定義しています。ICTビジネスを拡大させていくために必要な、極めて高度な専門性を持つICT人材だけでなく、医療分野など、同社でこれまでに知見のない分野のスペシャリストもターゲットとしています。
高度な専門性を持つ人材を有期雇用で獲得することで、同社の無期雇用社員に適用する報酬テーブルではマッチングし難い人材に対し、いわゆる外部市場価値に見合った水準を提示できる仕組みといえるでしょう。
日本の多くの大企業ではデジタル化に向けてPoC(Proof of Concept、新しい概念や理論、原理、アイデアの実証を目的とした試作開発の前段階における検証)は行われるものの、新しいビジネスモデルの創造や抜本的な業務プロセス改革にはつながっていないという状況にあります。
デジタル化への取り組みにおいてPoC程度なら表面的な協力をするものの、大企業で働くヒトは「デジタル化がもたらす変化に自分自身が対応できるだろうか」「デジタル化によって自分自身の仕事や役割の存在意義がなくなってしまうのではないか、仕事自体がなくなってしまうのではないか」といった不安にかられ、それがさまざまなコンフリクトを引き起こしているのです。
そうした状況を乗り越えるために今こそ、経営者自らがデジタルを活用して実現したい目的、ビジョンや夢、情熱を自らの言葉で語らなければなりません。そのために必要な経験や気づき、インプットを経営層自らが自分の目で確かめ、実践し獲得することが不可欠となります。
そして本当に必要なことは、将来のリーダー候補人材に対して、デジタルで新しいビジネスを生み出し、業務プロセスを変革する機会を与えることでしょう。日本の会社においてこれまでのリーダー候補育成は、主に以下のような機会付与を行うことでした。
これからは、上記に加えて以下が必要となってくるでしょう。
これは「タレントマネジメントをデジタル時代仕様に変えること」であり、それを経営層自らがコミットしてやり切ることです。
デジタル化に伴い人材戦略再構築は人事担当役員や人事部門単独で解決できる課題ではなく、「全社の重要経営課題」として位置付け、経営者自らがこの課題に取り組むことが不可欠なのです。