ドロシー・バトラー『クシュラの奇跡――140冊の絵本との日々』という本をご存じでしょうか。障害を持って生まれたクシュラが、絵本の読み聞かせによって、豊かな世界に開かれていく、感動的なプロセスが描かれています。
絵本の読み聞かせには、とてつもない力があります。 現代は変化の激しい時代です。
新型コロナウイルスの世界的流行のような予測不能な事態も起こります。
知識を着実に身に付ける伝統的な学力とともに、変化に対応できる柔軟な新しい学力が必要になってきています。
一言でいえば、「本当の頭のよさ」です。
これは、自分の足で立って、自分の頭で考え、自分の手で幸せをつかみに行く力です。
私は教育を研究してきた者として、子どもたちがどうしたら、変化の時代を強く生き抜けるかについて考えてきました。
変化に強いとは、変化に対応するしなやかさを備えているということ。
新しいことに1歩を踏み出す勇気と判断力、同時に、どんな社会になろうとも、人間社会である以上、協調性やコミュニケーション力は必須です。
他者に対する優しさ、思いやり、また、学力の基盤となる国語力、読解力はすべての力の源となります。
どんなに社会が変化し、価値観が変わろうとも、自分の力を発揮して生きていける、明るくたくましく、世を渡っていける子=本当に頭のいい子を、どう育てていけるか。
拙著『1日15分の読み聞かせが本当に頭のいい子を育てる』でも解説していますが、そのカギは、幼児期の7年間をどう過ごすかだと、私は考えています。
いろいろな早期教育が流行していますが、私は絵本の読み聞かせこそ、幼児教育の中心に据えるにふさわしいものと考えています。
本当は1日30分の読み聞かせを推奨したいところですが、習慣化がより大事なので、毎日の15分をオススメします。
「7歳までは神のうち」という古くから伝わる言葉があります。
生まれてから7歳になるまでの子どもは「神さまから預かりもの」という意味です。
そこには「神さまのように大切な存在」であり、さらに「まだ神さまに近いため、いつ神さまの元に戻る(亡くなる)かわからない“儚い”存在」だという意味もあります。
その昔、医療が発達していない時代、子どもが生まれても幼くして病気などで命を落とすケースは決して少なくありませんでした。それを、「預かっていた子どもを神さまにお返しした」と捉えていたといいます。
7歳まで無事に育った子どもは、そこでようやく人間の世界にしっかりと命の根を下ろすのだと。
子どもにとって、いえ人間にとって、「7歳」という年齢は人として生きていくための大きな節目、境目だと考えられていたのです。
現代社会においても、子どもがちゃんとした人になるための節目は「7歳」頃、つまり小学校入学のあたりにあると私は考えます。だから小学校に上がるまでの、0歳から6歳くらいまでの時間はギフトのような時間として考えるとよいのではないでしょうか。
そこでは、忙しい大人たちの時間とは違う、密度の濃い子ども時間が流れています。 大人は、つい、ものごとを効率で考えてしまいがちです。
そのため大人と同じように、「時間どおりにできる」「早くできる」「効率よくできる」ことを成長と考え、つい「早くしなさい」「いつまで○○してるの」「急いで」と子どもを追い立ててしまいがちです。
確かに、「ものごとをテキパキできる」ことは大切で、いずれ子どもが身に付けなければいけない素養ではあります。
でも、それは小学校に入ってから始めるくらいでちょうどいいのです。