6月に入り、保育園への登園も再開した。社内では、そろそろ一斉テレワークを終了しようとする動きも出ている。だが、武田さんはコロナの感染拡大が落ち着いても週に数回はテレワークを継続したいと希望している。
「登園を再開したことで、『仕事は子どもを見ながらするものではない』という認識を強くしました。これが日常化してしまうと、親も子も消耗してしまいます。やはり、保育園なくして仕事はできません」
テレワークを週数回継続するだけでも、通勤に費やしていた1時間半を子どもとの時間に充てることができる。何より、子どもが体調を崩したときにすぐ駆けつけられる距離にいられることも、今のこの状況においては大きな安心材料になる。「これを機にテレワーク制度の定着を会社に要請したい」と武田さんは話す。
「身の回りのお世話」がメインの未就学児に対し、小学生以上の親はどんなことを大変だと感じたのか。中2、小6、小2の3姉妹を育てながら都内のメーカーで商品企画の仕事に携わる吉岡さん(仮名)は、「とにかく勉強の進み具合が気になってしまった」と話す。
長女の中学校は私立。次女は中学受験を控えており、進学塾に通っている。今までは学校や塾任せだったが、いずれも授業がなくなったので自習させなければならない。仕事柄、これまでも週に数回はテレワークしていたが、子どもが在宅している状況で働くことには慣れていなかった。
「3月下旬に私が週5のテレワークに切り替えることが決まり、『これで勉強を見てあげられる』とホッとしました。でも、そう思ったのもつかの間。たとえ家にいたとしても、私はいつもどおり仕事がある。片手間に勉強を見ることはできませんでした」
実は一斉休校が確定した2月末に、すでに学習動画配信サービスや有料の学習アプリ、タブレット端末を使った通信教育サービスを契約していた。その額、3人合わせて月額1万3000円。ここに私立の授業料など固定で払っていた教育費が加わるので、結構な出費だ。だが、「できるだけ親のサポートなしでできる教材を選んだので、仕方なかった」と吉岡さんは話す。
休校から約2週間後の3月中旬には、次女の塾のオンライン授業が始まった。だが、長女の学校は特に動きがなかった。苦手科目の数学は自習だけでは難しいという長女の訴えもあり、4月から1カ月間、知り合いの家庭教師に依頼して、オンラインで勉強を見てもらうことにした。
「1科目に絞ったものの、それでも授業料は1万5000円。自分が勉強を見てあげられない罪悪感を、お金で解決してしまったような気がしました」
吉岡さんは「罪悪感」と表現したが、教育への不安を抱えていたのは彼女だけではなかっただろう。
政府が一斉休校要請を発表した2月27日を含む書籍の週間の売り上げランキング(「週間ベストセラー 総合ランキング」。3月3日、日本出版販売)には、売り上げ上位20位の中に学習ドリルが5冊、100位まで広げると17冊も入っていた。その前週のランキング100以内には1冊も入っていないことを見ても、休校によってどれほどドリルの需要が高まっていたかがわかる。
状況が変わったのは、4月も半ばに入ってから。長女の通う私立中学校のオンライン授業がついにスタートしたのだ。
それまで長女と次女の勉強時間をずらして1台のパソコンを共有させていたが、授業時間がかぶってしまったため、それぞれにパソコンが必要になってしまった。「できるだけ安いものを探したが、それでも10万円を超える出費になった」と吉岡さんは渋い顔をする。
だが、その出費をきっかけに、吉岡さんの心境にも徐々に変化が表れ始めた。パソコン費用を捻出するために家計を見直したことで、不安に駆られて教育費をかけすぎていたことに気づいたのだ。