前回の記事では、お金、社会的地位、モノなど他人との比較によって満足を得られる「地位財」による幸福は長続きしない、ということを説明しました。
どんなに年収が上がっても、モノによって得られる幸せばかりを追い求め、他人と自分を比較し続ける限り、幸せを感じにくくなる、という研究結果が出ているのです。
しかし、誤解のないように言っておきますが、お金持ちが全員、不幸なわけではありません。個人差があります。幸せの秘訣を目指しているかどうかが分かれ目だと思います。もちろん、私の知り合いにも、幸せなお金持ちはたくさんいます。
ここで重要なのは、幸せなお金持ちは、お金を持っているから幸せなのではない、ということです。幸せなお金持ちの共通点は、お金にとらわれていないことです。おそらく彼らは、全財産を失ったとしても幸せでいられるでしょう。
裏を返せば、「お金があるから幸せ」と思っているお金持ちは、幸せになれないということです。お金持ちだけではありません。私たち庶民も、「お金があれば幸せになれるはず」と思っていると幸せになれないのです。
私はよくこんなことを思います。風呂に入って目を閉じて「いい湯だなあ」と思うときの感覚は、家賃5万円のアパートの風呂だろうが、家賃100万円のタワーマンションの風呂だろうが、一緒だと。
タワーマンションのほうが多少広いとか、ジャグジーやテレビがついているとか、それくらいの差はあるでしょう。でも、タワーマンションは家賃が20倍だから、20倍気持ちいい、ということはありません。20倍高いソファも、20倍高い車も、20倍幸せだとは私には思えません。
このように、みなさんも例えば年収1億円の生活がどんなものか、想像してみるといいと思います。使えるお金が今より20倍になったと考えてみるのです。
もし家のない人がいたとして、その人が家を手に入れたら、幸福度は一気に20倍くらい上がるかもしれません。しかし、そのあとは緩やかなカーブになり、やがて幸福度には寄与しなくなるのです。
ワインでたとえれば、お酒を買うお金のない人が500円のワインを手に入れたら、幸福度はぐんと上がるでしょう。普段500円のワインを飲んでいる人が、ぜいたくをして2000円のワインを飲むと、多少、幸福度は上がるかもしれません。
しかし、50万円のワインと100万円のワインの比較になると、ソムリエやワイン通でなければ値段の区別はつかないでしょう。普通の人がブラインドテストをされたら、どちらがどちらだかわからない人も多いでしょう。
図に描くと下図のとおりです。ワインの値段が上がっていくと、これに比例して満足度が上がっていくのではなく、だんだんと上昇率が低くなっていくのです。
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つまり、幸福度は直線ではないのです。お金があればあるほど、高価なものであればあるほど、青天井に幸せになれる気がしますが、実はだんだんと幸せには影響しなくなっていくのです。専門用語では非線形性(線形=直線。つまり、非線形=直線ではないこと)と言います。人間の心は非線形なのです。実はこの人間の心の非線形性の解明こそ、プリンストン大学名誉教授のダニエル・カーネマンがノーベル経済学賞を受賞した研究なのです。