その結果、「テレワークでは社員が孤立しやすい課題も生じる」と指摘するのが、リクルートマネジメントソリューションズH R企画統括部の武藤久美子氏だ。「もともと自律的な働き方をしていた人はテレワークになじみやすい。一方で指示待ち人間だった人がテレワークすると、何をやればいいかわからず、孤立して “ソロワーク”の状況になりやすい」(武藤氏)。
こうしたコミュニケーションや評価の課題は、日本型の雇用慣習と結びついていると、前述の小林氏は指摘する。「日本型雇用の企業では、同じ時空間に社員が集まることで形成される“暗黙知”によって仕事が進む傾向がある。テレワークではその暗黙知を伝達しにくいため、仕事が進みにくくなる」(小林氏)。
社員の評価においても、テレワークでは仕事のプロセスが見えづらいため、成果での評価が求められる。しかし日本型雇用では制度上、成果差が報酬差に反映されにくい側面があるため、「職場での不満の種になりやすい」(小林氏)という。
緊急事態宣言後のオフィス回帰は、そうしたテレワークの“デメリット”解消にはつながるかもしれない。一方、それによって失われる“メリット”があることも忘れてはいけない。
まず大前提としてあげられるメリットが、テレワークは新型コロナの感染予防につながる点だ。政府が推奨する「新しい生活様式」でも、ローテーション勤務や時差通勤に加え、テレワークが推奨されている。
加えてアンケートでは、テレワークのメリットについて、「通勤時間が減り、家族と過ごす時間が増えた」「子育てや介護をしながら働ける」などと、個人のワークライフバランスに関連する回答が目立った。毎日通勤する必要がなくなれば、将来的には都心から離れた場所に住むなど居住地の選択肢も広がる。
また専門家は、企業にとってのメリットも指摘する。テレワーク研究の第一人者である東京工業大学の比嘉邦彦教授は、「1つはコスト削減。企業にとって賃料の削減余地が大きいほか、交通費、印刷代の削減効果もある」と話す。
もう1つが採用のメリットだ。現在、中小企業の多くが人手不足に悩むが、「テレワーク人材を活用できれば、その解消につながる」(比嘉教授)。さらには、イノベーションの効果を指摘する声も根強い。「テレワークで多様な人材を活用すれば、その土壌になる」と比嘉教授も話す。
今、必要なのは、緊急事態宣言が解除されたため、「なんとなくオフィスに戻る」ことではなく、上記のようなメリットとデメリットを整理したうえで、オフィスワークとテレワークをどう組み合わせるかを熟考することだろう。
その際、中長期的には前述の日本型雇用から、テレワークに馴染みやすいとされる、欧米流のジョブ型雇用への転換が進む可能性もある。ただ短期的には、既存の日本型雇用の中で、いかにテレワークをうまく導入するかという視点が欠かせない。前述の小林氏は、そのためにも「コミュニケーションの発想の転換が必要」と説く。
「多くの企業はテレワークすると、コミュニケーション不足に陥らないよう、情報のやりとりを“増やそう”とする。ただこれまでのような職場の暗黙知を形成するには、やりとりを“増やす”より “見せる”ことへの発想の転換が必要。そのためには電子メールではなく、より情報を共有しやすいチャットを活用するといった工夫が欠かせない」(小林氏)
テレワークを定着させるには、さらに仕事環境の整備や、評価における目標設定の明確化など、前述した“デメリット”への対応が求められる。「ウィズコロナ」の時代の新しい働き方を構築するには、経営陣や職場の責任者が大局的な視点から方向づけすることが欠かせない。