アップルがアメリカ時間4月15日に発表した「iPhone SE」第2世代モデルは、さまざまな意味で予想を超えていた。この製品はつねに業界の前進を牽引してきたアップルが、さらにスマートフォンの世界を拡大していくという製品ではない。
しかし、おそらくこの製品はしばらくの間、最も多く販売されるiPhoneになることは間違いないだろう。最先端のiPhoneではなく、日常の道具としてiPhoneを使っている既存ユーザーにとって魅力的な設定が散りばめられているからだ。
第2世代のiPhone SEは、アップルの株価を押し上げる要因となったiPhone 11/11 Proシリーズが持つパワフルな性能、カメラ画質、心地よい使い心地などはそのままに、オリジナルのiPhoneが持っていた使い心地を引き継いだiPhone 8に近いデザインを採用。そして64Gバイトモデルは4万4800円(税抜)と、5万円を割り込む価格設定がされている。
発表前には「iPhone 8と同じデザインの廉価版iPhoneが登場する」と言われていたが、実際に投入された製品は廉価版などではなかった。アップル製の端末は、独自に開発するSoC(統合型システムLSI)に機能の多くを依存しているが、最新のA13 Bionicを搭載することで上位モデルに遜色ない体験レベルを実現している。
極めて競争力が高い製品であることは間違いないが、日本市場においては、さらにiPhone SEに人気が集中する特別な事情があるからだ。
日本ではスマートフォン市場全体の半分以上という圧倒的なシェアをiPhoneは占めてきた。近年、格安の通信サービスとともに低廉なAndroid端末も伸びつつあるが、それでもスマートフォン利用者の半分以上(2020年1月で57%、ウェブレッジ調べ)がiPhoneを使っている。
こうした圧倒的なiPhoneの優位性が築かれたのは、iPhoneがもっとも使いやすく、製品としての完成度も高い業界のリーダーだったことも理由の1つだが、それ以上に低価格で購入できる端末だったことも大きい。
iPhoneがソフトバンク専売だった時代は、他社から回線契約者を奪うマーケティングツールとして使われ、その競争はKDDIがiPhoneを扱い始めた2011年10月からさらに激化した。
このとき発売されたiPhone 4Sは、もっとも低価格な16GBモデルで6万円前後。月々の通信料金割引と組み合わせることで、実質、無料で購入できる状態だった。その2年後のiPhone 5S、5C発売時にNTTドコモもiPhoneシリーズの取り扱いを始めると、携帯電話キャリア各社はiPhoneをこぞってプロモーションすることで他社への契約者の流出を防ぐとともに、フィーチャーフォンからの乗り換え促進を進めた。
背景にはさまざまな事情も囁かれていたが、使いやすく手離れのよい、またOSのアップデートなどのサポートも安定していたiPhoneは、携帯電話キャリア各社がフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行を進めるうえで、うってつけの製品だったことが大きいのだろう。
その後、毎年のようにiPhoneユーザーは増加していき、日本はグローバルでも例を見ないほどiPhoneが強い国になった。
さまざまな進化がなされた現在、単純に機能の面だけを見れば、操作性なども含めて、Android端末とiPhoneに特段の違いがあるわけではない。